GDPで日本がドイツに抜かれた
お世話になっております。526号を担当します荒木なつみです。
2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ、世界4位に落ちたことは気になるニュースの一つですが、なかなかわれわれの日常生活への影響を勘案しがたいと思います。
私がドイツへ留学した2003年以前から日本とドイツは、GDPでは世界2位と3位でした。2010年に急激に成長した中国が2国を抜き去った後は、3位と4位へランクを下げながら微増維持の状態が続いていました。2021年から2022年にかけて2国はほぼ横並びになり、2023年為替の影響などでとうとう入れ替わってしまいました。2016年に帰国するまでのドイツ生活を振り返ってみると、日本の生活水準とそれほど差があったようには感じません。ただ、「倹約の精神」は日本以上に強く、「ビールは飲みに行くが外食はたまに」、「スーパーで安く買う」、「住居も道具も人材もなんでもシェアリング」が自然と身についた気がしました。在独の友人は、世界3位になってもこの「倹約の精神」は揺るがず、むしろ嫌なくらい強靭になってきていると笑っていました。
そんな日本とドイツの生活を比較してみると、同じように欠かせない商品に気が付きました。外食をひかえ自炊するドイツ人、お弁当を作る日本人、その両者にとって需要が顕著なもの、それは冷凍食品でした。野菜、魚、肉、揚げ物、デザート、半調理品など、余計な生ゴミが出ず、調理は簡単、保存期間も長く、味の変化が起きにくいため、それぞれの食事情に適していたのかもしれません。日本冷凍食品協会の年間消費量の統計では、世界2位がドイツ、5位が日本となっていました(図1)。*1
図1: 冷凍食品の国民1人当たり年間消費量*2
冷凍食品の年間消費量は、ドイツでは一人当たり約40kg、日本でも約24kg近く消費している結果が出ており、EUの中でドイツはトップ、日本はオセアニア含むアジア太平洋地域の中ではオーストラリアに負けていますが、東アジアの中でトップでした。GDPでは1位のアメリカが1位、6位のイギリスが3位、12位のオーストラリアが4位であるため、国民性の他、経済を支える働き手の多忙さと関係しているのかもしれません。
冷凍食品の需要と供給を支えるコールドチェーン
この冷凍食品の需要と供給を支えているのは、「低温物流(コールドチェーン)」とよばれるインフラです。農作物や畜産物から商品が生産され、販売されるまでの流通プロセス全てを低温(コールド)で切れ目のない鎖(チェーン)によって構築します。「低温物流」によって、今までは鮮度や品質の問題で限られた地域の中でしか運べなかった商品が、より広範囲に運べるようになりました。ただし、物流企業が最適な管理温度帯を維持して対象物を保管、輸送するためには、特別な設備や車両、低温処理の知識と技術が必要となります。また、冷蔵倉庫、冷蔵コンテナ、保冷パック、冷蔵トラック、冷凍船などの施設・設備の構築には非常にコストもかかります。さらに詳細な運営と管理の方法については、「コールドチェーン(低温物流/冷凍物流)のプロセスについて」と「食品物流について考える~チルド物流とは~」をぜひご参照ください。
加えて、食品原材料から加工、パッケージ、最終商品までの全工程における衛生管理ルールが非常に重要です。「HACCP(ハサップ)」*3は、科学的に食品安全を守るために、世界中で取り入れられている国際的な食品衛生管理規格です。
Hazard Analysis Critical Control Pointの頭文字をとった言葉で、「危害要因分析重要管理点」という意味になります。原材料や製品などが国を超えて流通する際、環境汚染や微生物などの汚染などで危害が起きてしまったら大問題です。それを防ぐために、国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関である食品規格(Codex)委員会から世界へ向けて重要管理点を作成し、監視・記録する「HACCPシステム」が発表されました。ドイツを含むEUでは 2006 年に一次生産を除く全ての食品の生産加工、流通業者にHACCPを取り入れた衛生管理を法的に義務付けました。日本も2018年、食品メーカーから食品の物流事業者、販売事業者、飲食店などを対象に、HACCPの導入が制度化されました。*4このように、制度化・義務化している国への輸出や遵守している企業との取引には、HACCP対応ができ、すべての工程で一貫して高い水準の品質管理ができることが要件となるケースが増えてきています。
われわれが手に取るその冷凍食品は、高品質に鮮度を保ち、食中毒のリスクを低減させるための低温物流を経て店頭に並んでおり、その全過程をHACCPに対応した事業者によって衛生管理されている、というわけです。
冷凍食品の国内の流通だけではなく、和菓子やスイーツなどを輸出する場合にも低温物流が非常に重要です。2022年の農林水産物・食品の輸出額は1兆3,381億円、2023年は1兆3,586億円(前年比1.6%増)です(図2)。*5 農林水産省は、日本産食品の輸出額の新たな目標を2025年2兆円、2030年5兆円と掲げていますが、その多くが冷凍保管と輸送が必要であるため、低温物流の市場規模も拡大すると予測されます。物流企業がうまくビジネスに取り込み、国内だけでなく、国外で外貨を稼ぐことができれば日本の経済成長につながるのではないでしょうか。
図2: 農林水産物輸出額推移*6
ドイツで培った「倹約の精神」を大切な習慣として私は忘れることはありませんが、それでも「自炊もするけれど、外食も楽しんでいる」、「スーパーで安く買うものもあれば、八百屋や肉屋、魚屋で高く買うものもある」と言える、その余裕を友人と分かち合える日が来ることを心から願っています。
(文責:荒木 なつみ)
*1 冷凍食品エフエフプレスHP
*2 冷凍食品エフエフプレス ユーロモニターインターナショナルと日本冷凍食品協会「冷凍食品に関連する諸統計」より抜粋し作成
*3 厚生労働省HP HACCP(ハサップ)食品安全の重要管理点を作成し、監視・記録する手法。
*4 厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000662484.pdf
*5 農林水産物輸出入情報・概況
*6 農林水産物輸出入情報・概況2018-2023年12月農林水産省発表データより作成
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