コロナ後のグリーンロジスティクスのことを考える2 物流系スタートアップとの共創

2022年9月のこちらのブログで、「コロナ後のグリーンロジスティクスのことを考える-1: 世界の中の日本とドイツの物流指標」と題し、業界をリードするドイツの物流会社が「グリーン成長」と「デジタル化」戦略を強く推し進めていく理由を説明しました。

自社にはまだない新しい技術やビジネスモデルを取り入れ、事業を拡大するために、世界中の物流会社と物流部門はどのような戦略をとっているでしょうか。

本稿では、このテーマを物流系スタートアップとビジネスチャンスの観点から考えてみたいと思います。

世界の物流企業では、スタートアップ企業への投資が盛んに行われている。

温室効果ガスの排出を削減するためのエコドライブ支援システム、複数の企業が共同で利用する配送ネットワークの構築、再生可能エネルギーの活用とエネルギー効率の高い物流拠点の運営、再利用可能な包装資材の開発、貿易金融とサプライチェーン全体の電子化など。競合他社と差別化を図り、効率的かつ迅速な物流サービスを顧客へ提供するために、スタートアップへの投資が盛んにおこなわれています。

物流企業はスタートアップの新しいアイディアと可能性に出資をし、バリューアップのためのビジネスサポートを行いますが、その結果として高いリターンを得ることが目的です。下記図1に北米、EU、日本の物流企業7社が行っている投資の概要があります[1]。]

図1: 郵便・宅配など物流系企業がスタートアップへの投資を行っている例、各WEBサイトの情報より作成

*CVC: 事業会社がスタートアップ企業との共創を目的として設立する自前の投資部門・投資子会社

投資は環境問題対策に集中

長期経営計画のなかで掲げられる「温室効果ガス(GHG)の排出量ネットゼロ」、「持続可能な技術をビジネスに最大限取り込む」を実現するために、各社は投資の規模、投資領域、運用期間、投資先のステージを明確に絞っています。

例えば、UPSは電気自動車の確保のために第2世代電気自動車を生産しているArrival社へ投資し、自社のニーズに最適な配送用電気自動車10,000台をカスタマイズ生産することを確約しています[2]

国際輸送事業を日本でも展開していますが、投資に関してはEU内のスタートアップのみ対象とし、EUの地の利を活かした成長戦略をうかがわせます。

2018年にスイスのキューネ・アンド・ナーゲルはシンガポールのTemasekと合同でReefknotを設立していますが、DBシェンカーの地域戦略とは異なります。ASEAN諸国とオーストラリアをつなぐEコマースのスタートアップ、オンデマンド配送プラットフォーム、電子決済プラットフォームに積極的に投資をし、EU外での事業拡大とアジアでの新規ビジネス共創[3]を狙っています。

日本の物流企業の動向

日本郵政は地域社会のサポートに関わるスタートアップに目を向け、日本通運とヤマトホールディングスはグローバルな投資先も検討しています。後述の2社はファンドの規模を50億円、運用期間を10年、投資領域を幅広く設定しており、UPSやキューネ・アンド・ナーゲルほど明瞭な戦略投資は現時点でつかめません。

投資先の選定が難しいこと、ファンドの運用期間中に成果が出ないリスクがあること、投資先企業の成長が思わしくない場合には投資した資金が失われるリスクがあることは、もしかすると日本の物流企業とスタートアップとの共創、ビジネスチャンスを掴むことを慎重にさせているのかもしれません。

上記の投資リスクを100%解消することは誰にもできないでしょう。「カイロス(チャンスの神)は前髪しかない、好機はすぐに掴まなくては後から掴むことは出来ない」は、古代から現代のビジネスまで使われる格言の一つです。

投資前に投資と事業拡大のイメージを大きく描き、投資先企業を徹底的にリサーチし、投資後も緊密なコミュニケーションをとり、リスクを最小限に抑える対策を講じる。慎重かつテンポのよい戦略で、大きなチャンスを掴むことができるのではないでしょうか。

(文責:荒木 なつみ)

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[1] すべて2023年3月3日取得、ユナイテッド・パーセル・サービスUPS: https://about.ups.com/us/en/our-company/ups-ventures.html; A.P. モラー・マースクA.P. Møller – Mærsk A/S: https://www.maersk.com/growthk; キューネ・アンド・ナーゲルKuehne + Nagel: https://reefknotinvestments.com/; DB シェンカー DB Schenker: https://www.schenker-ventures.com/; 日本郵便: https://www.jp-capital.jp/; 日本通運: https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/press/2021/20211216-1.html; ヤマトホールディングス: https://kif.yamato-dx.com/about/.

[2] UPS, 2020年1月29日,「UPS invests in arrival, accelerates fleet electrification with a commitment to purchase up to 10,000 electric vehicles」, (2023年3月3日取得, https://about.ups.com/sg/en/newsroom/press-releases/sustainable-services/ups-invests-in-arrival-accelerates-fleet-electrification-with-order-of-10-000-electric-delivery-vehicles.html).

[3] REEFKNOT, Portfolio, (2023年3月3日取得, https://reefknotinvestments.com/portfolio/).

(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第501号 2023年4月5日)

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