コロナ後のグリーンロジスティクスのことを考える1 世界の中の日本とドイツの物流指標

センコーグループ中期経営計画(2022年度~2026年度)の投資計画[1]の中には、戦略投資(M&A、IT、環境)という項目があります[2]。5年間で900億円、1年あたりおよそ180億円をコロナ後の企業戦略の一つとして、この3つの領域に投資することが明文化されています。

この投資に含まれる環境投資は、グリーンロジスティクス(環境配慮型物流)の促進、すなわち環境への影響を測定し、最小限に抑えるための物流の試みと言い換えられます。

経済効率と環境効率のバランスを取りながら、持続可能な企業価値を創造することは簡単なことではありません。グリーンロジスティクスが、物流会社と企業の物流事業部にとってどのような価値となり、費用対効果につながっていくのかを4回に分けて考えてみたいと思います。

ドイツが盤石の首位。しかし日本の国際的評価も上がっている。

世界の物流パフォーマンスを2年に1度比較・評価していたLPI(物流パフォーマンス指標)[3]はコロナの間更新が止まっています。この評価の項目は、(1)通関手続きの効率度(2)インフラの質(3)輸送価格競争力(4)物流サービスの品質(5)スケジュールの達成度(定時制)(6)貨物能力の6つで、FIATA(国際貨物輸送事業者協会)の協力のもと、世界銀行の貿易担当チームが作成していました。最後の発表はコロナ前の2018年で、驚くべきことに、世界160カ国の中で日本は5位、2016 年の12位から大きくランクアップしていました(図1と図2)。輸送価格の競争力とサービスの品質の2点で大きく評価が伸びたのです

図1と図2: LPI Global Rankings 2016と2018より作成

その一方で、2014年以降世界トップの座を譲らないのがドイツです。整備された交通網と国際的なネットワーク網に基づくインフラの質、顧客満足度につながるロジスティクス技術力、その他すべての点で高い水準を保っています。

ロジスティクスはドイツの基幹産業の一つ

この国でロジスティクスは自動車産業と貿易の次に「高い価値を生み出す重要な経済機能」と認識されており、あらゆる商品の輸送と保管、情報の流れの制御ポイントであると同時に、企業のエコロジカル・フットプリント(人間活動が環境に与える負荷の指標)の大部分に責任を負っていると理解されています[4]。「新型コロナ危機」からの復興に向けた取り組みとして、EUは「グリーン成長」と「デジタル化」を柱にした成長戦略を掲げていますが、世界最大の国際物流会社、ドイツのDeutsche Post DHL Group(ドイツポストDHLグループ)も明快な戦略を示しています。

「2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出量ネットゼロ、2030 年までに持続可能な技術と燃料のために最大70億ユーロ(約9,618億円)の追加支出を予定」[5]、「2019 年から 2025 年にかけて、DXへの支出は約20億ユーロ(約2,750億円)、2025年までに年間少なくとも15億ユーロ(約2,060億円)の収益に貢献すると予想」[6] 同グループの2021年の売上は817億4,700万ユーロ(約11兆2,320億円)[7]ですので、ここから「年間売上のおおよそ0.9%環境投資と0.35%DX関連の投資を行い、DXに関して毎年1.8%は売上に貢献するだろう」と解釈することができます。

「グリーン成長」と「デジタル化」戦略は業界をリードする物流会社にこのようにリアルに落とし込まれ、新しい物流のために、スタートアップへの投資が盛んにおこなわれています。コロナ後のLPI(物流パフォーマンス指標)に、「環境に配慮したサービス」や「環境投資のROI(費用対効果)」が新しい項目として追加される時は間近かもしれません。その時日本は5位の評価を保ち、それ以上を目指していけるのでしょうか。次の回では、グリーンロジスティクスを物流系スタートアップとビジネスチャンスの観点から考えてみたいと思います。

(文責:荒木 なつみ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★掲載された記事の内容を許可なく転載することはご遠慮ください。

ロジ・ソリューションでは、グリーンロジスティクスに関してもご支援させていただいております。

何かお困りのことがありましたらぜひお声掛けください。

(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第488号 2022年9月28日)

[1] ドイツ物流協会 (BVL), Logistikumsatz und Beschäftigung(物流の売上高と雇用), (2022年8月26日取得, https://www.bvl.de/service/zahlen-daten-fakten/umsatz-und-beschaeftigung).

[1] Deutsche Post DHL Group, 2021 ESG Presentation, p.18, 2022年3月, (2022年8月26日取得, https://reporting-hub.dpdhl.com/downloads/2021/4/en/DPDHL-ESG-Presentation-2021.pdf).

[1] Deutsche Post DHL Group, Annual Report 2020, p.24, (2022年8月26日取得, https://www.dpdhl.com/content/dam/dpdhl/de/media-center/investors/documents/geschaeftsberichte/DPDHL-Geschaeftsbericht-2020.pdf).

[1] Deutsche Post DHL Group, Annual Report 2021, p.2, (2022年8月26日取得, https://www.dpdhl.com/content/dam/dpdhl/en/media-center/investors/documents/annual-reports/DPDHL-2021-Annual-Report.pdf).

[1] センコーグループホールディングス株式会社, センコーグループ中期経営計画 2022年度~2026年度, (2022年8月26日取得, https://www.senkogrouphd.co.jp/ir/pdf/strategy/release02.pdf).

[2] 前掲p.8.

[3] The World bank, LPI(The logistics performance), INTERNATIONAL LPI Global Rankings 2018, (2022年8月26日取得, https://lpi.worldbank.org/international/global).

[4] ドイツ物流協会 (BVL), Logistikumsatz und Beschäftigung(物流の売上高と雇用), (2022年8月26日取得, https://www.bvl.de/service/zahlen-daten-fakten/umsatz-und-beschaeftigung).

[5] Deutsche Post DHL Group, 2021 ESG Presentation, p.18, 2022年3月, (2022年8月26日取得, https://reporting-hub.dpdhl.com/downloads/2021/4/en/DPDHL-ESG-Presentation-2021.pdf).

[6] Deutsche Post DHL Group, Annual Report 2020, p.24, (2022年8月26日取得, https://www.dpdhl.com/content/dam/dpdhl/de/media-center/investors/documents/geschaeftsberichte/DPDHL-Geschaeftsbericht-2020.pdf).

[7] Deutsche Post DHL Group, Annual Report 2021, p.2, (2022年8月26日取得, https://www.dpdhl.com/content/dam/dpdhl/en/media-center/investors/documents/annual-reports/DPDHL-2021-Annual-Report.pdf).