今回は、社団法人日本ロジスティクスシステム協会(以下、JILS)が編集した「2008年度物流コスト調査報告書」を元に、現在の物流コストの現況と今後の展望について考えてみたいと思います。
物流コストの現況
JILSの調査によると、2008年度の売上高物流コスト比率は4.87%を記録し、前年度調査よりも0.03ポイントの上昇が見られました。1996年から続いていた売上高物流コスト比率の減少傾向も、2003年以降からは横ばいの傾向が見られます。
また、物流サービス単価の変動を見ても、2000年を基準に減少傾向にありましたが、2004年以降は横ばいの状況が続いているようです。
そんな中、荷主企業は、5社に1社の割合でリストラ型の「人員削減」を物流コスト削減策として実施しているようです。「人員削減」といった領域にまで踏み込まざるを得ない程、物流分野での効率化によるコスト削減が、困難になってきている現状があると考えられます。
物流コスト削減の実態
JILSの調査報告書によると、荷主企業が実施した物流コスト削減策と、効果があった物流コスト削減策にはズレが生じていることが分かります。また、物流コスト削減策の中には、既に実施してしまい、その効果が得にくくなっているものも存在すると考えられます。
このことは、本来ならば物流コスト削減策の中核を担うであろう「在庫水準の削減」や「保管の効率化」という策が、それぞれ(在庫水準の削減や、保管の効率化)を実施したと答えた企業数に比べ「効果が得られた」と答えた企業数が少なかった、という結果にも影響を与えていると考えられます。
また、「アウトソーシング先の見直し」という策は、実施した企業が少なかった割に、効果が得られたという物流コスト削減策の上位に挙げられています。
これに比べ、「アウトソーシング料金の見直し」は、実施したと答えた企業が多数に上るにも関らず、実際に「効果が得られた」と答えた企業は少なかったという結果が表れています。「アウトソーシング先の見直し」というコスト削減策には、物流単価ダウンも含まれていると推測されます。しかしながら、この「アウトソーシング先の見直し」には、前章より物流単価の引き下げが困難になってきていることから、物流単価ダウンではなく、物流管理能力やオペレーション能力といったトータルマネジメント力の見直しが主に含まれていて、コスト削減に繋がったと考えられます。
このことから、「アウトソーシング料金の見直し」という直接的な物流単価ダウンを図るよりも、荷主企業の物流戦略や方針に合ったアウトソーシング先とパートナー関係を築くことの方が、コスト削減効果が望めると考えられます。
意外なアンケート結果
住宅建材を扱う荷主企業様と共に仕事をしていた時のことです。荷主企業にとって最適と考えられる物流を提案するために、荷主企業の顧客が求める物流サービスが何かを、荷主企業と顧客それぞれにアンケート調査をしたことがありました。
荷主企業の結果を見ると、「全商品において欠品をしない」が最も多く、「オーダー締め時間の延長」や「着時間厳守」が続く形になりました。
これに対して、顧客の結果を見ると、最も多かったのは「Aランク品の欠品がない(Cランク品の欠品は許容)」という意見でした。つまり、顧客にとって欠品が重大な意味を持つのはAランク品に限ったことであり、回転率の低いアイテムに関しては欠品もやむを得ないという理解でした。
また、「同時間帯に同じドライバーによる配送(着時間にはこだわらない)」を希望する声も、顧客に多く見られました。オーダー締め時間に関する回答は目立たず、顧客は、荷主企業が考えるほどオーダー締め時間にこだわっていないことも分かりました。
これらの結果から、この顧客は、「Aランク品は決して欠品せず、同時間帯に同じドライバーが配送してくる」物流を求めていることが分かります。荷主企業の考える物流よりも、重要ポイントと許容範囲が具体的に示されています。
小売業の最大手である米ウォルマート・ストアーズの在庫削減戦略は、決して欠品させない主力製品と、欠品を許容する製品を区別した管理を行うものだそうです。この戦略は、上で紹介した顧客のニーズに見事に対応しています。
このように、顧客の求める物流を把握し、実践することで、顧客の満足度に繋がることは勿論、物流サービスレベルの明確な調整が可能になることで、余計なサービスに費やしてきたコストの削減が可能になります。
荷主企業は、直接的に顧客と接しているため、いかに高度な物流サービスを提供するかを考えてしまいがちですが、それは思い込みである場合が多いのではないでしょうか。私たちが実施した調査の様に、第三者が入ることで初めて、顧客の真実の声を聞けることもあると思います。
また、私たちの長年にわたる経験から、顧客と直接接触しているドライバーは、荷主企業の知りたい顧客情報を持ち合せていることが多くあるといえます。配送する際に見える顧客の品揃えなども、荷主企業にとっては今後の顧客への対応策や営業を考える上で、非常に価値のある情報でしょう。 このように、アウトソーシング先の事業者との建設的な情報のやり取りを考えることも、必要といえるのではないでしょうか。
3PL事業者の適切な活用が鍵
しかしながら、荷主企業の特徴に合った事業者の選定や、その事業者との建設的な情報のやり取りを実行するには、各事業者の能力を見極められるだけの、実務経験に裏打ちされた視点が必要でしょう。これらの作業を荷主企業が独自で行うとなると、上述したような思い込みに気付かないケースも考えられます。
この解決策の1つとして、3PL事業者の活用が挙げられます。3PL事業者ならば、荷主企業の立場に立ちつつも、第三者の視点から物流を取り仕切ることができると考えます。
また、3PL事業者の価値も、「いかに顧客のニーズを汲み取り、また、物流事業者の特徴を活かした活用法を考え、荷主により多くのメリットをフィードバックできるか」という点にあると考えます。この点を1つの判断基準とし、現在契約中の3PL事業者の評価や、今後3PL事業者を選ぶ際に参考にしてみる事をお勧めします。
最後になりましたが、物流コストの下げ止まりに行き当たっている現在、サプライチェーン全体を見据えた物流コスト削減策/物流改善策を考える時に来ていると感じます。3PL事業者を効果的に活用することが、時代の流れに乗れるか、取り残されるかの分かれ道といえるでしょう。
【参考資料】
■2008年度物流コスト調査報告書 (2009年3月)
社団法人 日本ロジスティクスシステム協会
(P6)図表1-2 売上高物流コスト比率(業種大分類別)
(P94~P96)1.3 コスト削減策の経化
■2009年6月22日開催 第65回JILS公開制研究会 配布資料
「日本の物流コスト―2008年度物流コスト調査から―」
久保田精一氏(JILS総合研究所 准主任研究員)
(P15)物価上昇の影響
(P40)最も効果のあった物流コスト削減策
■日経ビジネスONLINE
「ウォルマートの“見えない”強さ」(2009年8月18日記事)
https://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090811/202305/
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