冷蔵配送に求められる品質管理

先日、大手宅配便事業者で温度管理ルールが守られていなかったことが話題となりました。その後、いくつかの企業でも冷蔵品の常温仕分、配送による溶解クレームが発生したことが発表され冷蔵冷凍品の輸送品質に対する信頼が揺らいだことは記憶に新しいと思います。

そこで今回は問題点とされたポイントを追いながら現場から見る冷蔵輸送の基礎を解説したいと思います。

今回問題とされたポイントを整理すると以下の3点が考えられます。

1. 冷蔵品の温度管理
2. 輸送における冷蔵設備
3. 冷蔵品の温度変化

冷蔵品の温度管理について

宅配便の冷蔵輸送には、「冷蔵輸送」「冷凍輸送」の2つがありますが、「冷蔵輸送は10°C以下、冷凍輸送は-15°C以下を温度帯とした2つの温度管理システム」と規定されています。

しかし温度管理が必要な商品には、其々商品の特性によって管理する温度が違います。食品の場合は図1のような温度帯区分が決められています。

図1温度帯区分

例えば超低温に入るマグロは、-40°C以下でなければ鮮度が変色となって出てきますし、アイスクリームは-25°C程度、調理冷凍食品は-20°C程度となり、チルドとなるとさらに非常に限定した温度帯に区分されます。

宅配便はいろいろな商品を扱う為、冷蔵輸送の温度帯は上記のように設定されていますが、「預ける側」は「預けた商品」がどのような温度が適しているかご存知でしょうか?

商品が持っている温度帯に適する輸送を選択する必要があります。

輸送における冷蔵設備

固定設備によって温度管理がしやすい倉庫に比べ、移動体のトラックでは温度管理がはるかに難しくなります。一つの温度帯でかつ荷卸しするまで扉もあけずに走るのであれば、まだ設定した温度の管理は可能かもしれませんが、1回の扉の開閉でも庫内温度は急激に変化します。

そして車に設置している庫内温度記録を見ますと、実際は温度が大きく上昇する様子が分かります。先ほどの宅配便でも設定温度はベストかもしれませんが、安定した温度帯の空間を提供できるものではありません。

輸送時の温度管理とは商品の「今の状態をなるべく維持する」というのが目的です。しかし宅配便のように納品件数が多く、扉の開閉が激しいと温度管理は厳しものとなります。

それは集配拠点でも同じです。中元歳暮の時期は特に物量波動が大きく、どのように最適な状況で、最適な温度に保つことができるのか、工夫と充実した設備と徹底した作業ルールが必要となってきます。

冷蔵品の温度変化について

以前冷蔵倉庫にてこのような実験をしたことがありました。

「冷凍品は外気温の変化に、箱外装温度、箱内空間温度、商品(表面、芯温)温度がどう変化するか」

-25°Cの冷凍庫に保管していた冷凍野菜を25度外気温(直射日光なし)のところに置き、上記の温度を計測しました。

図2時間経過による温度変化

外気温:25℃単位:℃
箱外装 表面温度箱内 空間温度商品 表面温度商品 芯温度
0分後-18.2-19.5-22.5-22.8
1分後2.8-14.2-22.3-22.7
15分後15.6-4.7-17.3-22.7
30分後19.3-3.1-15.3-21.1

箱外装温度は1分後にマイナス温度から4度まで上がり、30分後には19°C近くになりました。しかし箱内空間温度は30分後でも-3°Cでした。気になる商品温度ですが、30分後、表面温度は-15°C、芯温は-21°Cでした。この結果はあくまでも冷凍野菜なので冷凍品目や冷蔵食品の温度変化と全く違うのですが、箱内の温度は外気温よりも、商品温度や箱の仕様に比例するという事です。

例えば発泡スチロールに入った商品は、時間も関係しますが、冷蔵庫や冷凍庫に入れなくても中身の温度を変化させるほどの影響をほぼ受けません。発泡スチロールは外気温と箱内温度をほぼ遮断してしまうからです。

逆に発泡スチロールの商品を冷蔵庫に入れても一緒です。冷気を遮断してしまいます。もし中の商品に冷蔵庫の影響を及ぼしたいなら、発泡スチロールを開けて直接冷蔵庫に入れる必要があります。同じように商品にドライアイスや保冷剤を挟み、保冷毛布で包めば、商品を常温車両に積み込んでも、長時間低温状態を保つことが可能です。

まとめ

まとめとして、商品温度というのは単に冷蔵庫等の冷やす能力のある設備に頼るのではなく、 「商品温度を一定にするための工夫した梱包」「最適温度を保つための充分な設備」「適温を保つためルールに沿った温度帯管理する人材」が必要で、配送にも「温度管理コスト」がかかるということです。

今回の問題はハード面を充実させればいいという問題ではなく、ソフト面への改革も必要と思われます。

今クール宅配便が直面している課題とは、「増えていく通販商品」ではないかと思われます。大手通販会社では送料無料が普通となり、クール便においてもその波が押し寄せている状況です。

温度管理に創意工夫と費用投資が必要な冷蔵輸送に、このような通販のサービスを適合させることが可能なのでしょうか。大手宅配便事業者は、指導員の導入、営業所へ事前に到着貨物量が分かるシステムの導入、保冷庫が可変式となっている新型車両の導入、物量多くなり温度帯管理が難しい場合は荷受けも断る…等、新しい動きを始めました。

物流側に負担ばかりかかるのではなく、顧客、荷主、物流事業者にそれぞれの利益が発生する冷蔵輸送が構築されるよう今後の動向に注目します。

※先述の大手宅配便事業者のホームページにて、営業所全店への調査結果、今後の指針、外気温の品温への影響等報告書が出されています。一つ一つ誠意のある報告でぜひご覧いただきたいと思います。

(文責:岩本)

【参考文献】
社団法人日本冷蔵倉庫協会 「冷蔵倉庫基本マニュアルと運営の指針」
日本経済新聞、朝日新聞記事
株式会社フリゴサイト
https://www.frigo.co.jp/
株式会社ニッスイ企業情報サイト
「超低温が実現した刺身用冷凍マグロ」

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第233号 2013年12月20日)

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