「物流の教科書」-4 在庫管理とトレードオフ

2020年3月末に上梓させていただきました「基本がわかる実践できる 物流(ロジスティクス)の基本教科書」から、今回は、在庫について取り上げます。

資産としての在庫の管理と現品としての在庫管理

「在庫管理」は、とても重要で奥が深いものです。

荷主側の立場ですと、在庫をどこに置くのか(サプライチェーン上や物理的位置)、どれだけ置くのか、どのようにして輸送するかなどいろいろな要素が絡み合っていて、最適な組み合わせを検討し、運用していくことが求められます。

一方、物流事業者側の立場ですと、あるべき数量と現品に差異がないか、在庫品の品質は保たれているか、保管方法や荷役方法は適切か、そして効率的かといった視点から運営することが求められます。

いずれも「在庫管理」といわれますが、資産としての在庫の管理と現品としての在庫管理の2つの面に分けられます。在庫という資産の管理(Inventory management)は、棚卸資産を管理することで、過不足なく最適な場所に配置されるようにすることです。在庫の現品管理(Stock control)は、在庫品を利用できる状態に保ち、数量も帳簿と差異がない状態で管理することです

在庫管理の目的とは

在庫管理(在庫という資産の管理)の目的は、顧客サービスの観点から見ますと必要な時に必要なものを提供できるようにすることで、経営の観点から見ますと過剰でも不足でもない在庫状態を維持し、余分に在庫費用を発生させないことです。

在庫を大量に持つと顧客のニーズに合わせて商品を提供できますが、在庫のコストが大きくなります。この在庫コストには、在庫保有による売価の下落、品質の劣化や陳腐化、廃却損、製造にかかった資金に対する金利負担、それらを保管することによる物流コストなどいろいろあります

一方、在庫を少なく持つと品切れが発生し、顧客のニーズに合わせられなくなります。このトレードオフの関係を管理し、最適に維持することが在庫管理で求められていることです。

慶応義塾大学総合政策学部の2022年度入試では、この在庫のトレードオフの内容が拙著から引用されて取り上げられました

在庫問題以外にも拠点数と配送サービスレベルなどが代表的ですが、物流はトレードオフの関係が随所にみられます。物流の運用において、複雑に絡みあう要素すべてを満足できる解はありませんので、いかにバランスをとるかが重要です。そして、時間とともに変化する環境に合わせていくことも求められています。つまり、物流最適化に終わりはないということです。

このような特性を持つ物流、面白いと思いませんか。

(文責:中谷 祐治)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第490号 2022年10月26日)

参考

中谷祐治(2020) 「基本がわかる実践できる 物流(ロジスティクス)の基本教科書」日本能率協会マネジメントセンター

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