今こそ兵站を考えてみる

■名著「山・動く」
1991年に起こった湾岸戦争、当時の米軍・作戦司令官であったパゴニス中将が記した著書が「山・動く(1992年)」です。55万余の将兵と700万トンの物資、3万両の戦闘車両をアラブの砂漠に配備した史上最大のロジスティクスをドキュメンタリー形式で語っています。後方支援の重要性が書かれており、集中と分散を適切に行うことで物資補給最適化が図られる実例が書かれています。この書籍については、物流に関わる方であれば一度は聞いたことや読んだことがあるのではないでしょうか。ロジスティクス(日本語では兵站)という用語が一般的に日本で使われ始めたのも、この書籍がきっかけだと思われます。
2022年2月24日、ウクライナの複数の都市で爆発がありました。ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まったのです。戦況は連日テレビや新聞、ネットニュースで伝えられていますが、両国の兵器や兵力の比較が報じられるだけで、肝心なロジスティクス能力の差は伝えられていません。ニュースを見るたびに、この「山・動く」の内容を思い返しています。

■あらためてロジスティクスの重要性を考える
ロシア軍は最初の3日間でウクライナの首都・キエフを陥落させ、ゼレンスキー大統領に替えて傀儡(かいらい)政権の樹立を予定していたと言われています。しかしながらウクライナ軍の想定外の抵抗により、3日どころか現時点(4月1日時点)で5週間を超える戦闘が続いています。なぜロシア軍が苦戦しているのかをロジスティクスの視点から考えてみることにします。
ロシア軍は国内に張り巡らせた鉄道網を使って、ウクライナとの国境付近へ戦車・軍隊の配置、食料・燃料の補給を行っています。地図と重ね合わせると、その前線基地は鉄道網の結節点にあることが多いように見えます。広大な土地を持つロシアは鉄道が国内の主要な移動手段です。国の配下にある鉄道は約3万人の職員に支えられ、国内移動能力は高いものがあります。つまり鉄道への依存度が高いということです。
ところが国境を超えてウクライナ領土に入ると軍隊の移動手段はトラックが主流となります。兵力や武器で優位に立っていても最前線への物資や武器、燃料の供給が難しくなるのです。しかもウクライナ軍は首都・キエフに通ずる2つの橋を自ら破壊していて、供給線を断つという戦法に出ています。供給不足から燃料切れを起こして放置されているロシア軍の戦車や、食料をお店から強奪している兵士の写真が報道されています。また道路標識を外してロシア軍が自分のいる場所や進むべき方向が分からなくようにしています。紙の地図を頼りに移動しているロシア軍の部隊もおり、混乱に陥っています。
「山・動く」では、前線の兵隊をお客様と見立てて、必要な物資を必要な時に届けるためにはどうすればよいかが書かれています。センス&レスポンス(現場で起こっている事象を検知して即時対応する)による基本的な戦術があったようです。一方ロシア軍はどうでしょうか。プッシュ型システムで柔軟性がないように感じられます。

■最後に
戦争をきっかけに発展した技術や理論は多くあります。例えばミサイルの弾道計算のために開発されたコンピュータなどが挙げられます。兵站:ロジスティクスは軍事用語ですが、環境・社会・平和維持に役立つ考え方であって欲しいものです。

(文責:釜屋 大和)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第476号 2022年4月6日)

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