2024年問題緩和へ航空貨物輸送という選択肢

変わる航空貨物運賃

542号を担当いたします瀬下(せしも)です。

 トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限されることにより発生する「物流の2024年問題」を受けて、長距離輸送の選択肢の1つとして航空貨物輸送が注目されています。

 航空貨物輸送と聞くと「輸送スピードが早い」というメリット、「運賃・コストが高い」というデメリットを思い浮べられる方が多いと思います。「運賃が高い」というデメリットがあるため、航空貨物輸送は長距離輸送の選択肢として検討されづらいですが、その考え方が変わろうとしています。

 全日空(以下ANA)は、2024年4月から国内旅客定期便における昼間限定(午前10時から午後5時までに出発する便)の安価な運賃(コンテナバリュー運賃)を新設しました。

 旅客便の空き貨物スペースを有効活用することで、従来料金を最大で10分の1まで引き下げられることが可能となっています。それによりトラック輸送と運賃が同等またはそれ以下になり、「物流の2024年問題」の解決策として輸送の選択肢が増えると考えられます。

 航空貨物の多くは夜間~早朝にかけて輸送される場合が多いため、昼間帯の国内旅客定期便の貨物室スペースの利用率は、重量ベースで約20%にとどまっています。今回の新サービスで昼間帯の空きスペースを有効利用すると、年間約100万トンの貨物を追加で運ぶことができるそうです。

 このサービスが発表された2024年4月時点の対象路線は、羽田空港発着の新千歳、伊丹、福岡空港の主要路線のみでした。2024年7月からは新規路線(羽田空港発着の熊本、鹿児島、長崎、広島、松山空港を結ぶ便と、那覇空港出発の羽田、伊丹空港到着便)が追加され、徐々に拡大しています。

コンテナバリュー運賃の三つのメリット

 この取り組みのメリットは、3点あると考えています。

 1点目はコンテナ単位での運賃設定のためトラック1台にも満たない物量を安価で運べることです。これは、トラック幹線輸送で運ぶほどの物量を持っていない荷主にマッチする輸送方法だと考えています。対象となるLD3コンテナ(図1)の底面は横幅1,430mm×奥行1,400mm(※1)ですので、物流業界で広く普及している標準パレット(1,100mm×1,100mm)をそのまま搭載でき、パレットを崩さないシームレスな輸送ができます。

 また、料金設定はコンテナ1台あたり定額設定のため、搭載率を上げることでさらなるコストダウンも見込めます。羽田-伊丹間の場合、片道運賃は15,000円/コンテナで設定されていますが、比較として全日本トラック協会が定めているトラックの標準的な運賃(※2)を見てみると、東京-大阪間(500㎞仮定)はトレーラー使用で片道222,370円となっています。LD3コンテナを14台搭載できるトレーラー(※3)を使用する場合、コンテナ1台あたり15,884円になります。航空貨物輸送は、トラック輸送の代替手段になり得ると考えています。

図1 LD3コンテナ

 2点目は輸送スピードの早さです。トラックの場合、東京-大阪間の所要時間は約6時間(※4)ですが、航空機の場合は羽田-伊丹間を約1時間で運行します。遠距離になるにつれ、トラックと飛行機の所要時間差は大きくなり、「輸送スピードの早さ」というメリットを存分に活かすことができます。

 3点目は破損や紛失のリスク軽減です。LD3コンテナにパレットのまま搭載して輸送するため、他社貨物との混載がありません。そのため他貨物との接触による破損や紛失等のリスクを軽減することができます。

 航空貨物の国内貨物輸送量は輸送重量(トンベース)で1%にも満たない現状(※5)ですが、ANAの打ち出した低運賃設定が航空業界全体に広がり、需要を掘り起こすことができるか注目していきたいです。

 航空貨物輸送が「安価で早い輸送となった今、「物流の2024年問題」の打開策として選択肢の一つに入れてみてはいかがでしょうか?

(文責:瀬下 渉)

(参考)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第542号 2024年8月14日)

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