物流の視点から見た自動運転への期待

はじめに

昨年の年末~年度末は、東北の復興需要に加え、景気回復・増税前の駆け込み需要の影響で、全国的にトラックによる輸送力は不足となりました。根底には、ドライバーの成り手不足という問題や3K・低賃金という労働環境や免許制度の改正により、今後さらに拍車が掛かってきそうです。また、旅客(バス)業界でも、居眠り事故発生に伴い、ドライバーの長距離、長時間労働という過酷な労働環境が問題視されております。

上記状況に加え、少子高齢化という人口構造の変化もあり、ドライバー等の人材確保については、他業種との競争環境が厳しさを増し、状況が劇的に良化(ドライバーの成り手が増える)することは難しいと思われます。

物流業界としては、ドライバーの労働環境の改善やモーダルシフト化等による対策を進めることが必要です。その他の打開策の一つとして、自動車メーカーの技術革新による労働環境の劇的な変化にも期待したいです。その技術とは、国内外の自動車メーカーが研究している、自動車の自動運転の取り組みです。

自動運転とは

国土交通省の資料によると、自動運転は大きく3つのカテゴリがあります。

1.高速域での自動運転

高速域での自動運転は、主に高速道路での走行を自動化させるものです。半自動であったり、追い越しまで可能であったり、制限速度認識を可能にしたり等、メーカーによってカバーする範囲は異なります。中には、一般道での自動走行を目指しているメーカーもあります。

2.低速域での自動運転

低速域での自動運転は、主に渋滞時の走行を自動化させるものです。こちらも、メーカーによってカバーする範囲は異なります。

3.駐車場での自動運転

駐車場での自動運転は、その名の通り自動駐車を可能にするものです。特徴としては、スマートフォンと連携をさせ、ドライバーが降車後に空きスペースを探し、目的の駐車枠内に自動で駐車するというものです。

自動運転の実現により、交通事情やドライバーの労働環境が大幅に変化しそうです。

自動運転による効果として、下記3つが想定されます。

1.ヒューマンエラーによる事故削減

高速道路の事故の90%以上は、発見の遅れ、判断の誤り、操作の誤りといったヒューマンエラーが原因です。また、居眠り運転や飲酒運転、スピード違反による重大事故も抑止できます。当然、プログラムミスや電波障害等による事故も発生しますが、ヒューマンエラーの事故に比べると格段に少ないのではないでしょうか。

2.渋滞の緩和

ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール:車間自動制御システム)の導入により、サグ部(下り坂から上り坂にさしかかる凹部)等での渋滞緩和(30%の混入率で50%の渋滞削減)やVICSとの連携による渋滞道路・車線の回避が実現できます。

3.燃費改善

自動運転により、不要な加減速の低減や渋滞の抑制、隊列走行による空気抵抗の低減により燃費が向上し、自動車による二酸化炭素排出量が削減されます。また、燃料使用量が減少することから、燃料高騰への対策にもなります。

現在の自動運転の研究は一般車で実施されておりますが、商品化されればもちろんトラックへの導入も期待できます。

トラックに自動運転が導入されると

仮にトラックで完全自動運転が実現されると、上記3つの効果に加え、下記の効果も期待できます。

1.長距離、長時間運転労働からの解放

無人戦闘機のようにプログラムによる運行ルート管理や事務所での無線コントロールが可能となれば、全線においてドライバーが不要となります。積み場所、取卸し場所にそれぞれ人を手配すれば、配送業務が完結できます。全線が自動化でなくとも、現在の研究分野である、高速道路、渋滞時の自動化が実現できれば、ドライバーの疲労、ストレスが大幅に削減できそうです。

2.物流コストの大幅なダウン

現在のトラック原価の約40%が人件費です(トラック協会:経営分析報告書(平成24年度決算版))。自動運転車は車両価格が高くなる反面、この40%の人件費がほぼゼロになります(上記積卸人員や無線コントロールが必要なためゼロにはならない)。また、約20%を占める燃料費も燃費向上により低減されます。トラック輸送のコスト構造の変化により、物流コストが大幅に削減される可能性を秘めております。

3.物流品質の向上

配達時間については、渋滞や人の技量差が無くなり、プログラミングされた通りの経路を一定の速度で運行するため、ほぼ決まった時間で目的地に到着します。また、降雨や積雪等の自然災害や工事、事故等による通行規制の回避が可能となり、高い定時運行率の維持が可能となります。納入先でもインターネット等で到着時間がほぼ正確に把握できます。さらに、荷台での貨物の状態が安定するため、荷崩れ、振動による品質の劣化が少なくなります。

私が考えただけでも、上記の効果が期待でき、他にも色々な効果がありそうです。ハード面の課題に加え、道路交通法の改正や免許制度の抜本的見直し等、実用化にはまだまだ課題はありそうですが、是非とも自動運転トラックを開発して頂きたいと思います。

(文責:森田)

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【参考資料】

国土交通省
第4回オートパイロットシステムに関する検討会
参考資料1 国内外における最近の自動運転の実現に向けた取組概要
国土交通省
第5回オートパイロットシステムに関する検討会
資料2 検討課題の整理
公益社団法人全日本トラック協会
経営分析報告書 平成24年度決算版

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第257号 2014年7月16日)