資料のチェックを紙媒体ですべきか、電子媒体ですべきか

はじめに

お仕事で資料を作成した後は、紙に印刷してチェックしたいという方も多いと思います。私もその1人で、紙のほうがミスに気付きやすいです(あくまで個人の見解です)。

資料のチェックを紙媒体ですべきか、電子媒体ですべきかについて、複数の先行研究があります。

メディア研究者のマーシャル・マクルーハンによると、人間が紙の文字を読む場合、それは反射光で文字を読むことになるため、人間は脳生理学的に分析モード、心理的には批判モードになり、他方においてディスプレイから読む場合、それは透過光で文字を読むことになるため、人間はパターン認識モード、くつろぎモードになるとしています。同じくメディア研究者の有馬氏は、それを基に紙に印刷したほうがミスを見つけやすいとしています。

またメディア情報研究者の深谷氏、およびトッパン・フォームズ株式会社は、紙と透過光ディスプレイのいずれが校正の精度と生産性が高まるかを実証実験し、この論説を支持する結論を導いています。しかしながら図書館情報研究者の松山氏らは、実証実験を通じて紙と透過光ディスプレイの違いでは同じ結果を得たものの、透過光電子媒体と反射光電子媒体(*1)を用いた実証実験では、媒体の違いによる校正の精度と生産性の差があるとは結論付けられず、むしろ媒体への慣れによるところが大きいのではないかと考察しています

校正に関しては、紙媒体ではできないがコンピュータではできることもあります。校正履歴を残せることや関係者と校正履歴を共有できること、また表現が統一されているか検索をかけることなどです。そのため、私は紙に印刷した後、それを一読しながら赤ペンで修正箇所や統一性が気になるところに印をつけ、その後にコンピュータ上で校正履歴を残しながら、表現の統一性も確認するというやり方を取っています。

ペーパーレス化も進む

ところで、以前は会議の資料を印刷し、紙袋に詰めてお客様先へ訪問していました。不足がないよう多めに印刷したものの、案の定資料が余り、何部かそのまま持ち帰り、シュレッダーにかけたことも多々ありました。懐かしい思い出ですが、もったいないですね。今はペーパーレス化が進み、資料を事前に電子メールでお渡しし、会議の際はプロジェクターに投影してお話することが多くなりました。特に最近は新型コロナウイルス感染拡大防止のためにお客様ともweb会議システムを利用した会議をする機会が増え、紙媒体の資料がない会議が当たり前になってきたように感じます。

物流現場でもペーパーレス化は進んでおり、作業にて利用していた出荷指示書が紙からハンディターミナルなどに代わり、配送においても受領書へのサインが電子サインに代わる動きが見られます。消耗品費の削減という理由もありますが、それ以外にも作業性の向上、書類の管理コストやリスクの低減、作業履歴の検索のしやすさがメリットとして考えられます。

紙にも紙の良いところがあります。

それぞれのメリット・デメリットを意識しながら、目的に合わせて媒体を選択することが望ましいでしょう。

(*1) Amazon Kindleや楽天koboなど、書籍を読むことを主目的とする電子媒体には反射型デバイスが採用されており、同実験ではKindleが用いられています。

(*2) タイトルの『紙ってる』は、ダイナパック株式会社が2019年6月に商標登録されており、その表現を参考にさせて頂きました。同社のホームページには非常に興味深い商品が多数紹介されており、何かの際に利用させて頂きたいと思います。

(文責:松室 伊織)

<参考資料>
マーシャル・マクルーハン『メディアの法則』NTT出版、2002年10月。
有馬哲夫『世界のしくみが見える「メディア論」―有馬哲夫教授の早大講義録』宝島社、2007年10月。
深谷拓吾、小野 進、水口実、中島青哉、林真彩子、安藤広志「PDFは紙を超えるか?:電子校正改善へ向けた、液晶ディスプレイにおける校正作業ミスの分析」『情報処理学会研究報告書Vol.2011-HCI-141 No.3』2011年1月。
松山麻珠、池内淳「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」『情報処理学会研究報告書Vol.2015-HCI-162 No.2』2015年3月。
トッパン・フォームズ株式会社「TOPPAN FORMS News Release 「紙媒体のほうがディスプレーより理解できる」ダイレクトメールに関する脳科学実験」2013年7月。
https://www.toppan-f.co.jp/news/pdf/2013/0723.pdf

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