文学から考える、生成AIの活用法~生成AIを“書かせる”のではなく、“考えるための装置”として捉える発想~

芥川賞作家が示した、「AIと創作」の新しい可能性

「生成AIを駆使してこの小説を書きました。」

 そんな発言が、第170回芥川賞の受賞会見で大きな注目を集めました。発言の主は、2024年に『東京都同情塔』で芥川賞を受賞した作家、九段理江さんです。

 ChatGPTやClaudeのような生成AIが身近になった現在、「AIを活用して文章を作成する」ことはもはや珍しくありません。しかし、プロの作家がそれを公にし、かつ高く評価されたという事実は、文学界だけでなく、創作全般におけるAI活用の可能性と議論を広く喚起することとなりました。

”第2の編集者”としてのAI活用

 一部では「創作活動への冒涜ではないか」などと批判的な声もありましたが、九段さんは、AIに「丸投げで小説を書かせた」のではありません。実際にはAIの生成文をそのまま採用したのは作品のうち約5%と明かしており、彼女の語る創作プロセスは、「AIとの対話そのものが創作活動の一部だった」と捉えることができる斬新なアプローチでした。

 具体的には、構想段階からアイデアを問いかけたり、登場人物の行動を相談したり、物語の展開パターンを例示してもらったりと、AIを第2の編集者のように巧みに活用していたのです。

 このようなAIとの関わり方は、文学創作の領域にとどまらず、私たちビジネスパーソンの日常業務においても応用可能なヒントを含んでいます。

創作だけじゃない。ビジネスにも応用できる「AIとの対話」

 生成AIは、単なる文章自動生成ツールではなく、創作や表現を補助し、人間の思考を深めるパートナーとしての可能性を秘めているのです。

 たとえば、構成に悩んだときのブレインストーミング相手や文章の書き出しのアイデア出し、客観的視点からの推敲サポートなどが挙げられます。これらは、皆様の日々の業務に応用しても、大きな効率化と質の向上が期待できるのではないでしょうか。

物流の現場に、生成AIはどう役立つのか

 物流の現場でも、生成AIの活用は少しずつ広がりつつあります。たとえば、配送報告の自動要約、現場報告書の文案生成、教育資料のブラッシュアップといった業務で、AIが“言葉の補助エンジン”として機能しはじめています。

 また、属人的になりがちな業務や倉庫作業のマニュアル、引継ぎ書の作成など、「言葉になっていない知見を、どう言語化するか」という課題に対し、AIが伴走者となることで、業務標準化や作業の可視化にもつながっていくのではないでしょうか。

AIと付き合ううえで、大切にしたい視点

 ただし、生成AIを活用する際にはいくつかの注意点もあります。

 たとえば、AIはあたかも事実のように見える誤情報(いわゆる「ハルシネーション」)を出力してしまうことがあります。文脈を誤解して的外れな提案を返してくるケースもあるため、最終的な判断や編集は人間が担うべき領域であることを忘れてはなりません。また、AIに頼りすぎると「自分の言葉」が希薄になるリスクもあるので、あくまで“参考意見”として受け止め、検証・補正する視点を持つことが大切です。

 九段さんの創作スタイルも、「AIで書いたか、書いていないか」という単純な問いではなく、「どのようにAIと関わったか」という視点が重要なのではないでしょうか。

 たとえAIを使ったとしても、最終的に“自分の言葉として選び取り、意味を与える”ことができるのは私たち人間にしかできないことです。だからこそ、「AIを使って書くこと」は、創造性の否定ではなく、むしろ新しい表現の探究なのだと思います。

AIは使えば使うほど”自分の言葉”が見えてくる

 実は、ここまで読んでくださったこの文章も、私ひとりで執筆したわけではありません。構成に迷ったとき、言葉がなかなか出てこないとき、そっと隣でヒントをくれたのは生成AIでした。今回の原稿はまさに「AIと共に書く」実践でもありました。最初は、単なるツールとして使ってみようと考えて始めたのですが、何度もやり取りするうちに、「自分は何を伝えたいのか」「どのように伝えたらより効果的な文章になるか」といったことが、自分の中で徐々に明確になっていったように感じます。

 AIは決して万能でも完璧でもありません。情報の正確性に欠けることもありますし、期待値を大幅に上回る答えが返ってくるというレベルではないように思います。ただ、迷ったときに問いかけてみると、何らかの応答を返してくれます。そのやりとりが、思わぬ気づきや学びを与えてくれることがあります。「AIに書かせる」ではなく、「AIと共に書く」という選択肢は、人間の感性がいらなくなるということではなく、むしろ「自分の声」を再発見するきっかけになるのかもしれません。

これからの“書く”を考えるヒントとして

 生成AIを活用していると、「こんなこともできるのか」と驚かされることも多く、新たな発見が日々の良い刺激となっています。今回はその喜びと感動を皆様にも共有したく、このようなテーマを取り上げてみました。AIがどこまで業務に活用できるかを見極めるためには、あえて「自力でできる業務」にもAIを使ってみて、意識的に触れる機会を持つことが大切です。新しい技術に抵抗のある方も、まずはメールの作成など身近な業務から試してみてはいかがでしょうか。

 本稿が、皆様にとって生成AIとの向き合い方を見つめ直すきっかけとなり、日々の言葉との対話が少しでも豊かなものになれば幸いです。

(文責:益田 善綱)

(参考)『東京都同情塔』、九段理江著、新潮社

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