はじめに
近年はデジタル技術の急速な発展により、ビジネスのあり方だけでなく、従業員に求められるスキルや役割も大きく変わってきています。第4次産業革命に突入している今、AIやDX化により人の仕事が奪われるといった話題も耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。しかし、上記のように機械に置き換えられたとしても、プログラムの設計や管理など、それらを使いこなすという新たな業務も出てきます。
そのような中注目されているのが、既存の従業員を新たなデジタル人材へと育成する「リスキリング」です。リスキリングとは、職業の変化や必要とされるスキルの進化に対応するための再教育のことを指します。必ずしも「リスキリング=DX教育」ではありませんが、近年は特にDXの分野におけるスキル習得を指すことが多いように思います。
2020年のダボス会議で発表された「リスキリング革命」では、2030年までに10億人がリスキリングを達成することを目標として掲げており、世界的にも注目されています。日本国内でも、経済産業省がリスキリングを「新しい職業に就くため、または現在の職業で必要なスキルの大幅な変化に対応するための学び直し」と定義しており、急速に変化する環境下で、企業が従業員に新たなスキル習得の機会を提供し、変化に適応する取り組みを強化することが求められています。
なぜリスキリングが必要か
- 企業競争力の低下とスキルギャップの課題
DX化が進む中、業務を効率的に遂行するためにはデジタル技術の活用が不可欠です。また、企業内で必要とされるスキルと実際に保有しているスキルとの間にギャップが広がると、企業の競争力が低下するリスクがあります。こうしたリスクを解消する手段としてリスキリングが注目されています。
- 国際競争における課題とIMDのランキング結果
IMD(国際経営開発研究所)が、67ヶ国を対象に調査した「世界デジタル競争力ランキング(2024年)」によると、日本は総合順位で31位でした。このランキングは世界67の国・地域を対象に、ビジネスや行政プロセス、社会変革につながるデジタル技術の導入・活用状況を国・地域ごとに測定し、比較するものです。日本は前年度から1ポイント上昇で、「技術的枠組み」「高等教育における水準」など一部指標で評価される一方、以下の項目は世界的に見ても順位が低い結果となっています。
- デジタル・技術的スキルの不足
- 高度外国人材への魅力の低さ
- 厳しい規制の枠組み
- 迅速な意思決定や柔軟な組織運営が難しい現状
これらからも分かるように、日本は、デジタル面のスキル力やグローバル人材の獲得力において依然として遅れが目立ちます。この状況を打開するには、新たなITスキルやデジタルツールの活用能力を企業として育成し、市場の変化に柔軟かつ迅速に対応することが不可欠です。つまり、IMDの結果が示す日本のデジタル競争力における課題を克服するためにもリスキリングの重要性が高まっています。
リスキリングの具体的な方向性
企業がリスキリングに取り組む際、特に重視されるスキル育成としては以下があげられます。
- デジタルスキルの活用能力
コミュニケーションツール、業務管理システム、クラウドソリューション、AIを使った解析ツールなどを活用し、効率的に業務を推進できる体制づくりが求められます。 - データ分析スキルの向上
需要予測や各種指標に基づく分析を行い、戦略的な意思決定に活かす能力が重要です。Microsoft社のExcelやBIツールなどの操作に加え、統計学や機械学習の基礎知識を社内で共有し、業務のレベルアップを図ることが期待されます。 - コミュニケーションスキルの向上
チーム内での円滑なコミュニケーションや異なる文化的背景を持つ人々との協働は、グローバル環境では欠かせません。また、課題解決力やリーダーシップ、創造的思考などの包括的なスキルセットを整備することで、企業全体の変革を加速させることができます。
これらの能力を育成するために、オンデマンド型のeラーニングや現場に即した研修プログラムなど、多様な学習機会を企業が用意することが効果的です。日常業務と直結したスキルを身につけられる環境づくりがリスキリング成功の鍵となります。
リスキリングがもたらす効果
リスキリングを推進することで、業務効率化と競争力の強化が期待できます。デジタル技術やデータ分析の知見を活用できる体制を整えれば、業務プロセスを大幅に改善できる可能性があり、以下のような取り組みが可能になります。
- 新たなサービスや製品の開発
AIを活用して顧客ニーズを予測し、新たなビジネスモデルや商品を開発することで差別化を図る。 - 業務フローの最適化
在庫管理や生産ラインなどをデジタルツールで可視化・分析し、無駄を削減して生産性を向上する。 - 顧客体験の改善
デジタル技術を活用して顧客とのやりとりをスムーズにし、満足度の向上と企業イメージの強化を目指す。
こうした取り組みから生まれる新しい価値が、企業全体の競争力強化につながり、さらなるビジネス機会の創出を後押しする原動力となるのです。
最後に、企業がリスキリングを推進することは、急速に変化する社会・経済環境に対応する上で不可欠です。デジタル技術の導入や柔軟な組織運営を進めると同時に、必要なスキルを計画的に育成していくことで、持続的な成長と競争力の強化が期待できます。また、体系的な学習環境を構築し、社内の学び合いを促進することで、新たな価値を創出し続ける企業文化の醸成にも繋がることでしょう。リスキリングを通じて、変革の波をチャンスに変え次の時代を切り拓いていくことこそが、企業にとっての成長の鍵となります。
(文責:長久 佳典)
(参考)
2024年世界デジタル競争力ランキング、日本は総合31位 課題は「将来への準備」 – IMD business school for management and leadership courses
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