物流業界の特許の動向:スマート物流関連特許が増えている

増えるスマート物流特許の出願

近年、「スマート物流」の特許出願が増えています。

スマート物流とは、自動化技術や IT の活用を伴う物流のことです。自動化技術には業務を機械が中心に担う物流機械・設備の自動化と、機械が人間を支援する作業支援システムの活用が含まれます。スマート物流を実現することで、物流品質の向上や物流業務の効率化などが期待されます。

2016年~2020年にスマート物流に関する出願数(年平均)は、2012年~2015年の出願数の2.9倍に増加しました。全分野の特許出願数が横ばいであることを考慮すると、それだけ注力される技術区分として成長している分野と言えます。

ただ、ネットの検索で物流に関する特許はあまりヒットしません。そのため本記事では、特許庁が毎年実施している「特許出願技術動向調査」をベースに、物流業界の特許をご紹介していきます。

「特許出願技術動向調査」において、令和4年度(2022年度)のテーマの1つとして「スマート物流」が選ばれました。

この調査は、特許庁が今後の進展が予想される技術テーマを複数選定して調査することで技術トレンドをつかみ、日本の研究開発の方向性を見定めるために行なわれています。企業にとっては、研究開発戦略、M&A戦略、知的財産戦略を策定するための基礎資料として活用されることが期待されています。

特許庁は報告書の中で、スマート物流に関する技術を

  1. 用途
  2. 自動化技術やITの活用
  3. 課題・効果

の3つの観点から整理しています。それぞれが3つの大区分に分けられ、さらにいくつかの小区分に細分化されています(下図1)。

図1 スマート物流の技術俯瞰図 (出典:特許庁 『令和4年度 特許出願技術動向調査報告書 -スマート物流-』)

1.用途では、物流の領域(調達物流、販売物流、生産物流)、輸配送手段(自動車、鉄道など)、倉庫業務内容(積み下ろし、検品など)や管理対象(コンテナ、パレットなど)といった観点で分類しています。

2. 自動化技術やITの活用ではより具体的な技術内容(自動搬送、自動倉庫など)で分類をしており、3.課題・効果では物流品質向上といった技術導入により期待される効果に注目して分類をしています。

2020年に多かったスマート物流特許の分類は

2020年においては、「計画・経路最適化」や「IDによる管理」に分類される特許の出願数が特に多いです。この2つの分野に分類された特許の中から、筆者が興味深いと感じた特許を3つ取り上げ、物流業界の特許にどのようなものがあるかを紹介したいと思います。

「IDによる管理」 の1例:RFID読取システム(ドローン棚卸)

【出願人】 トッパン・フォームズ株式会社(現:TOPPANエッジ株式会社)

【公開番号】 特願2018-241720(P2018-241720)

ドローン(図2中の22)でRFIDタグを読み取ることで、省人化された倉庫内棚卸作業を実現する技術です。地上走行する無人機(図2中の21)は、互いの移動をサポートし合うなどドローンと連携します。このような無人機を用いた技術は特に大型倉庫の上部や冷凍倉庫といった、人にとって負担の大きい棚卸に有効だと考えます。

図2 出典:「J-Platpat」公開番号:特開2020-102164

「計画・経路最適化」の1例:運送管理システム

【出願人】 SBSロジコム株式会社

【公開番号】 特開2017-165510(P2017-165510A)

定期的な特定の荷主の配送のための車両を確保しつつ、他の荷主の配送業務も効率よく行なうことが出来る運送管理システムに関する技術です。この特許の「詳細な説明」には、この技術が必要となる背景が分かりやすく解説されていましたので、簡単に要約します。物流コストを抑えるためには複数の荷主からの依頼に対して効率よく配車し、積載率を向上させることが理想です。ただ荷主としては、車両が確保できず定期的な配送が滞ることがないように車両が優先的に確保されることを望みます。運送会社としては荷主ごとに車両を優先的に確保するとなると抱える車両が多くなり、人件費等のコストがかさみます。このバランスを上手く取ることが重要な課題であり、本特許はそれを解決できるということです。物流業界の内情を垣間見ることができ、興味深いと感じました。

図3 出典:「J-Platpat」公開番号:特開2017-165510

「IDによる管理」 の1例:匿名配送による荷物の配送方法

【出願人】 ヤマト運輸株式会社

【公開番号】 特開2017-167670(P2017-167670A)

匿名配送を行ないたい時、送り状発行時に荷主が受取主の情報を知ることなく、かつ送り状に荷主の情報も表示せずに集貨及び配達を成立させる技術です。筆者もフリマアプリの匿名配送でヤマト運輸を利用した時に、図4のような送り状を発行したことを覚えています。

図4 出典:「J-Platpat」公開番号:特開2017-167670

非製造業である物流の事業者が特許に関わることは少ないかもしれません。しかし物流を取り巻く技術開発は盛んになってきていると感じます。今回ご紹介したシステム関連の特許に加えて、無人搬送機や自動倉庫といった実体のある物に関連した特許も数多くあります。特許情報は、特許情報プラットフォームの「J-Platpat」から簡単に得ることが出来ますので、興味のある方はぜひ調べていただきたいと思います。

(文責 野澤 朋矢)

【参考文献】

『令和4年度 特許出願技術動向調査報告書 -スマート物流-』 特許庁

『特許情報プラットフォーム(J-platpat)』 J-PlatPat (inpit.go.jp)

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