物流2024年問題を考える(その3:「受託構造の多重化」)

物流業界における特徴のひとつに、荷主企業が委託する物流業務の受託構造の多重化があります。

特に、運送業務においては、元請け企業が保有するアセット(車両)には限りがあり、必然的に地元の中小運送事業者に再委託することがほとんどです。

再委託とコンプライアンス

運行管理面において、元請け企業の管理者が自社ドライバーの運行計画を踏まえてコンプライアンスを遵守することは当然ですが、再委託する場合においては、同管理者は委託先事業者のコンプライアンス実態を十分に把握できていません。

また、当然のことながら元請け企業が受託する荷主企業との契約料金と、元請け企業と下請け企業との同料金には格差があり、必然的にドライバーの給与にも影響します。さらに、再々委託先事業者においてはなおのことです。

ここに、2024問題の抱える一つのリスクが潜んでいます。

トラックドライバーの所得が減ってしまう

下請け企業のドライバーは、先述の構造上、安い賃金で労働を提供することになり、少しでもそれをカバーするために、より多くの労働時間を提供して、所定外時間の残業代を稼ぐというのが一般的です。

しかし、2024年以降労働時間の規制が適用されれば、この術が無くなり、所定内労働に対する基本賃金が上昇しない限り、収入が減るという事態になります。

これらの事態は、現在でも発生しており、某テレビ番組で放映されたドライバーのドキュメンタリーでは、運行実態を記録するタコグラフメーターをドライバーが意図的に操作して、残業時間を不正に申告し、運行管理者もそれを黙認しているという様子が赤裸々に語られていました。

このようなドライバーは稀だと信じますが、それほど深刻な状況が発生する要因は、中小運送事業者の経営実態にも見てとれます。

全日本トラック協会が毎年公表している中小運送事業者の直近の営業利益率は、▲0.1%(令和3年3月発表)に過ぎません。経営管理レベルも含め、様々な要因が考えられますが、受託する業務の低い料金レベルが大きく影響していることは事実です。2024年問題を考える上で、運送業界の基盤を支える中小運送事業者の経営改善が重要課題であることは否めない事実だと考えます。

(文責:貞 勝利)

(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第494号 2022年12月21日)

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(参考)

公益社団法人全日本トラック協会「経営分析報告書(概要版)令和元年度決算版令和3年3月」

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