採用だけでは、人手不足は解決しない
物流現場の課題として、まず挙がるのは人手不足です。物流現場では、人手不足に加え、管理者不足によって教える時間も取りづらくなっています。その結果、人が育ちにくくなり、業務負荷が一部の人に偏る悪循環が生まれています。
そのため、多くの会社では採用施策に力を入れています。求人媒体の見直しや、初任給の引き上げ。紹介制度の導入など、いずれも採用のために必要な取り組みです。
ただし、採用だけを強めても、人が定着しない現場があります。それは、入ってきた人が続かない現場です。採用人数は増えても、現場に残る人数が増えなければ、人手不足は解消しません。
だからこそ、採用施策と同時に注力すべきは、現場で入ってきた人が働き続けられる状態を作れるかどうかです。
では、人が定着する現場と、そうでない現場の差はどこに出るのでしょうか。私は、仕事の途中で、上司や先輩が必要なフォローを入れられているかどうかに出ると考えています。
ここでいう必要なフォローとは、作業が終わった後に指摘することではありません。違和感が出たときに声をかけ、止めるべき場面を示し、必要に応じて仕事を引き取ることです。これがあるかどうかで、新しく採用された人の働きやすさは大きく変わります。
結果を確認するだけでは、育成のタイミングを逃す
物流現場では、管理そのものがないわけではありませんが、結果を確認する程度にとどまっているケースが多くあります。
結果を確認することは重要ですが、結果が見えてからでは、働いている人が迷った場面には戻れません。育成の機会は、問題が表に出た後ではなく、作業している最中にあります。
迷った場面で相談できる相手がおらず、本人任せの判断が続くと、自己流の進め方が残りやすくなります。その状態が続けば、ミスが起きたときの軌道修正にも時間がかかります。
この経験が続くと、人は育ちにくくなります。結果として、人が定着しづらい環境が生まれやすくなります。
物流の仕事は、手順よりも判断で差がつく
物流の仕事は、工程ごとに分かれています。受付、入荷、保管、引当、ピッキング、検品、出荷、配車、問い合わせ対応。業務を分解すれば、それぞれに担当や手順があります。
しかし、実際の現場に、同じ状態の日は一日としてありません。決められた手順だけでは対応しきれない場面が多く発生します。
物量が増える。欠品が出る。入荷が遅れる。送り先が変わる。急ぎの出荷が割り込む。問い合わせが重なる。そのたびに、小さな判断が発生します。
慣れている人は経験で判断できますが、新しく採用された人や経験の浅い人は、判断の線引きが分かりません。作業手順は覚えられても、迷ったときにどう動くかまでは、すぐには身につきません。
ここを個人任せにしてしまうと、判断の基準が共有されず、育成の歩みが止まりやすくなります。
判断の基準が分からなければ、任せられる仕事は増えません。任せられる仕事が増えなければ、本人は成長を感じにくくなります。成長を感じにくい職場では、働き続ける理由も弱くなっていきます。
だからこそ、人が続く現場には、仕事において、上司や先輩によるフォローが大切なのです。
必要なフォローが失われる三つの理由
では、なぜ多くの現場で、仕事で上司や先輩からの必要なフォローが難しくなるのでしょうか。理由は、現場の構造的・物理的な要因が大きいからです。
一つ目は、責任者が作業に入ってしまうことです。リーダーや主任が、自らピッキング、検品、出荷対応に入っている時間帯は、実態としては一人の作業者です。責任者という立場であっても、周囲を見る時間がなくなり、部下の違和感や小さな異変に気づきにくくなります。
二つ目は、事務所と現場の間で、いま起きている問題や違和感が共有されにくいことです。
現場では、作業の遅れや判断に迷う場面が日々発生しています。しかし、その状況が事務所側に十分伝わらなければ、問題を把握できるのは、トラブルが起きた後になります。
三つ目は、教え方や声のかけ方が人によって違うことです。経験のあるリーダーは、現場の変化に気づきます。声をかけるタイミングも分かっています。しかし、そのやり方が個人の感覚に頼っていると、別の人には引き継げません。新しく採用された人も、何を基準に動けばよいか分からなくなります。
見る時間がない。情報が届かない。教え方が人によって違う。この三つが重なると、仕事で上司や先輩からの必要なフォローは現場から失われていきます。
見直すべきは、「見る時間」「情報の流れ」「教え方の基準」
まず確認すべきところは、一定時間は現場全体を見る役割に回る、定期的に進捗確認の時間を設けるなど、作業から少し離れて現場を見る時間を意識的につくっているかです。
次に確認すべきことは、朝礼や終礼で状況を共有する、遅延やトラブルが発生した際の報告基準を決めておくなど、小さな変化を早めに共有できる状態がつくれているかです。
最後に確認すべきことは、教え方や声のかけ方が人によって大きく変わっていないかです。
どの場面で声をかけるのか。どこまで本人に任せるのか。どの状態になれば引き取るのか。こうした基準がそろっていなければ、新しく入った人は何を頼りに動けばよいか分からなくなります。
制度を整えることも必要ですが、最初に見直したいのは、日々の仕事の中でつまずきを拾える状態になっているかどうかです。責任者が見る時間を持つ。事務所と現場で情報を共有する。教え方や声のかけ方の基準をそろえる。この三つを現場の中で決めておくことが、人を育て、定着させる土台になります。
定着は、採用費と教育時間を回収する投資である
定着は、単に「辞めさせないこと」ではありません。採用した人を戦力に変えることです。
そのためには、入社後の数か月を現場任せにしないことが大切です。誰が教えるのか。どこまで任せるのか。どの段階で確認するのか。こうしたことを決めておかなければ、新しく入った人は不安を抱えたまま働くことになります。
人が続く職場では、採用後の受け入れ方が整理されています。教える人がいて、確認する場面があり、困ったときに相談できる相手がいる。その積み重ねが、早期離職を防ぎ、採用した人を現場の力に変えていきます。
定着は、現場の生産性、品質、教育効率に直結する経営課題です。
入社後に仕事をどう覚えてもらうのか。どこまで任せるのか。どの場面で支えるのか。これらが現場で決まっていなければ、人は育ちにくく、定着もしづらくなります。人が定着する物流現場に必要なのは、仕事の途中で気づき、声をかけ、適切な判断を支える力です。その力を現場に取り戻すことが、人が定着する職場づくりの第一歩だと考えます。
(文責:長久 佳典)
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