なぜ人材育成は再現できないのか──戦略コンサル部のワークショップで見えた「問い」の重要性

 

人材育成の課題とワークショップ実施の背景

 人材育成の重要性は広く認識されている一方で、その実態は属人的なOJTや経験則に依存しているケースも少なくありません。結果として、育成の質やスピードにばらつきが生じ、組織としての再現性を確保できないという課題が生まれます。
 こうした状況は、物流業界に限らず、多くの企業に共通する構造的な問題です。特にコンサルティングのように高度な判断や思考が求められる領域においては、「誰が担当するか」によってアウトプットの質が変わる状態は、事業としてのリスクにもなり得ます。
 こうした背景を踏まえ、当社戦略コンサル部では「教育・育成」をテーマにワークショップを実施しました。今回の議論で重視したのは、「何を教えるか」ではなく「どのような問いを立てるか」という視点です。

「質問」と「問い」の違い

 ワークショップの冒頭では、安斎勇樹氏の『問いのデザイン』をもとに、「質問」と「問い」の違いを整理しました。質問は既に存在する答えを引き出すためのものですが、問いは答えが定まっていない事象に対して思考を促すものです。

引用:安斎 勇樹/塩瀬 隆之 『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』 より

 問いを起点にすることで、議論は「正解探し」から「前提の再考」へと移ります。今回のワークショップでも、「教育・育成」というテーマそのものを問いとして捉え直すことからスタートしました。

教育・育成を問い直すプロセス

 まずは、「教育・育成」から連想される言葉を各自が自由に書き出しました。模造紙いっぱいに広がった言葉は、OJT、フィードバック、成長、計画、反省といった実務に直結するものから、「人生ずっと勉強」「自分で考える力」「主体性」といった価値観に関わるものまで、多岐にわたりました。

 このプロセスを通じて見えてきたのは、教育・育成が単なるスキル習得に留まらず、思考や姿勢、さらには個人の在り方にまで関わる広い概念であるという点でした。
 その上で、書き出したキーワードをもとに「問い」を設計しました。実際に挙がった問いには、以下のようなものがあります。
・次世代リーダーに求めるものは何か
・教育によってどこまで人は変わるのか
・本当に長く活躍できる人材とは何か
・アウトプットを意識して指導できているか
・「教えること」と「育てること」は同じなのか

対話を通じて深まる気づき

 これらの問いは、すぐに答えが出るものではありません。しかしだからこそ、議論は深まり、それぞれの経験や価値観が交差する場が生まれました。
特に印象的だった問いの一つが、「育成の責任は誰が負うべきなのか」というものです。
 一般的には上司の役割とされることが多いものの、議論の中ではさまざまな視点が提示されました。上司に依存すれば属人化が進み、組織としての再現性が失われる。一方で、仕組み化しすぎれば個別最適な育成が難しくなる。また、そもそも本人の主体性がなければ育成は成立しないのではないか、という意見も出されました。
 この問いを通じて、育成は特定の誰かに責任を帰属させるものではなく、組織として設計すべきものではないか、という視点が共有されました。同時に、その仕組みの中で個人の主体性をどう引き出すかが重要であることも改めて認識されました。

教育と組織のあり方

 さらに議論を進める中で、教育・育成は単体で設計できるものではないという論点にも行き着きました。
 どのような教育を行うべきかという議論は、企業としてどのような価値を提供し、どのような人材を求めるのかという前提と不可分に結びついています。言い換えれば、教育のゴールは企業の目指す姿そのものに規定されるということです。
 そのため、個人の主体性に委ねる前に、まずは企業としてのスタンスや期待する役割を明確にする必要があるのではないか、という議論に至りました。

問いと対話がつくる組織の力

 こうした議論を経て見えてきたのは、教育・育成の質は「何を教えるか」ではなく、「どのように学びを引き出し、どのような問いを立てるか」によって大きく左右されるという点です。
 教育というものは、何をもって成長とするのか、その定義自体が人によって異なります。だからこそ、正解を求めるのではなく、問いを起点に対話を続けていくことに意味があります。
 問いを立て、対話すること。そうした営みが、変化の激しい環境の中でも、自律的に考え続けられる組織をつくるのではないでしょうか。

(文責:益田 善綱)


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(参考)安斎 勇樹/塩瀬 隆之 『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』 学芸出版社
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