屋久島のトイレで考えたこと
パワースポット、森ガール、山ガール….昨年は自然へ目を向ける風潮が高まっていた気がします。少し古い話になりますが、そんな流れに乗っかって、昨年の夏に屋久島へ行ってきました。自然は言うまでもなく雄大で感動しましたが、それ以上に、屋久島を愛する方々の活動が印象に残りました。
屋久島の観光スポットにはトイレが設置されており、全部で6ヶ所あるそうです。登山者が増加する中で、し尿の処理方法が問題になっています。し尿が未処理のまま放出されると、大腸菌により水が汚染され、生態系に影響を及ぼす他、トイレットペーパー残留による悪臭などの影響もあるそうです。屋久島では、自然を守る為、人力搬出という結論に至りました。
トイレに、し尿の入ったボトルを背負って下山する方の写真が貼ってあり、衝撃を受けました。登山者からの募金や登山料などから費用を捻出しているそうですが、全然足りていないといいます。
縄文杉へのルートとして有名なトロッコ道は、杉の運搬用に1920年代から使用されているそうです。以前は山の中に集落があり、そこに暮らす人々の移動手段としても利用されていました。集落は閉鎖されましたが、現在も残っているトロッコ道は、し尿運搬にも利用されているといいます。
蜀南竹海とソーシャルロジスティクス
話は変わりますが、私が物流業界へ興味を持ったのは、中国四川省にある蜀南竹海という竹山を訪れたことがきっかけでした。凸凹した山道を年季の入ったバスで数時間登った所に集落があります。そこで、日本人客は初めてだという民宿の主人に、竹細工製品の輸入話を持ち掛けられました。美しい竹細工の椅子や箱などが並べてあり、純粋に日本人には好まれそうだと感じました。その時に思い浮かんだことが、これらの製品をどうやって日本まで輸送するのだろう、ということです。
人の往来すらままならない土地で作られた高の張る製品を、日本まで輸送するのではかなりの費用がかかるのではないか、実際問題として可能なのだろうか…
これが、私が物流の重要性を認識し、興味を持ったきっかけです。どんなに素晴らしい製品でも、輸送手段がなければ外へ広めることは困難です。
昨年の震災でも、交通網の断絶により、物資を届けたくても届けられないという事態が発生していました。人の生活において、物流は欠かせないものなのです。
これらの事例は、ソーシャルロジスティクスに繋がっていくのではないかと考えます。早稲田大学のソーシャル・ロジスティクス研究所によると、ソーシャルロジスティクスとは『ビジネスロジスティクスの上位概念』であり、『物流、人流を一体のものととらえ、それを包括的に研究する分野としてビジネスロジスティクスのインフラとなる』ものだそうです。
私なりに解釈をしてみます。90年程前の屋久島は、木材の運搬(ビジネス)と移動手段の確保の為に、トロッコ道を建設しました。現在の屋久島は、自然を守りつつ、し尿処理をする手段として、処理施設のある所まで人力で搬出するという結論を出しました。
中国の蜀南竹海の場合は、私が行った2007年時点では、人の生活に必要な交通インフラも満足には整っていなかった印象を受けます。物流と人流を包括的に考えることで、民宿の主人が竹細工製品を輸出する為の、ビジネス物流のインフラも整っていくことでしょう。これは、90年程前の屋久島の姿と重なる部分があるように感じます。
そこに住む人とそこへ移動して来る人の生活と、ビジネスとの調和を図ること、これがソーシャルロジスティクスなのではないでしょうか。グローバルにビジネスを考える際、モノの流れの最適化を求めるだけでなく、その地域で暮らす人の生活を考えたロジスティクスが必要なのだと思います。
(文責:小出)
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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第157号 2012年1月25日)