人工知能開発が加速している
最近、巷を賑わせている飛行機があります。小型無人飛行機「ドローン」です。総理官邸屋上や長野の善光寺に墜落して一躍有名になりましたが、その使用方法については、様々な法的規制も検討されているようです。ドローンにはこのような小型もあれば、軍事用の大型無人飛行機で10mを超えるようなものもあります。ご存知の方も多いと思いますが、アマゾンはドローン(小型)での配送サービス「アマゾン・プライム・エアー」を発表し、今年中にはスタートするという報道もありました。この無人飛行機に搭載されているのが、「人工知能」の一部です。身近なところでは、大ヒットしたロボット掃除機「ルンバ」や、iPhoneに搭載されたSiriという音声システムも「人工知能」の一例です。いま、世界で注目されている技術のひとつが、この「人工知能」です。
5月8日付の日本経済新聞一面に、国内主要35社の2015年度の研究開発費は、リーマン・ショック前の2007年度と同水準になる見通しとの掲載がありました。同紙によると日立製作所は、2016年度以降の研究開発費に5000億円を投じ、中でも「人工知能」、「センサー」、「ロボット」、「セキュリティー」などへの投資に力を入れるようです。海外に目を移すと、IBMやグーグルを筆頭に活発な開発競争が展開されており、「人工知能」が近い将来、人間の能力を超えるのではないか、人間の仕事は機械に奪われるのではないかという議論まで起きています。宇宙物理学で世界的に有名なスティーブン・ホーキング博士は、「完全な人工知能を開発できたら、それは人類の終焉を意味するかもしれない」(注1)と、どこかの映画で観たような警鐘を鳴らしました。
物流倉庫内の仕分け作業を人工知能が行うとしたら?
「人工知能」の技術がどんなレベルまで進んでいるのか。人工知能研究の第一人者といわれる松尾豊氏(東京大学大学院准教授)の著作(注2)を引用し、物流倉庫内の仕分作業をイメージして、簡単にご説明します。
【レベル1:単純な制御プログラム】
縦〇cm×横〇cm×高さ〇cm以上の荷物は「大」のところに移動する。同じように、「中」「小」のサイズを厳格にルール化し、その通りに移動する。
【レベル2:探索・推論、あるいは知識を使ったもの】
レベル1と同じようにサイズの情報と共に、荷物の種類に応じてたくさんの知識が入れられており、例えば「割れ物注意」のタグがついていれば丁寧に扱う、「天地無用」であれば、上下を入れ替えないなどの処理ができる。
【レベル3:機械学習】
レベル1.2のように厳格なルールや、知識が与えられているわけではなく、いくつかのサンプルが与えられて、「これは大」「これは中」「これは小」というルールを学んだら、次からは自分で判別して仕分できるようになる。
【レベル4:特徴表現学習(注3)】
荷物の様々な特徴を自分で発見し、一番効率的な仕分の仕方を学んでいく。たとえば、ゴルフバックをいくつか束ねて、この荷物はサイズ的には「大」かもしれないが、他のものと形状が異なるので別扱いにする、など。
このように見てくると、私たちの周囲で、どのレベルの「人工知能」が活躍しているかを見渡すことができるかもしれません。そして、今米国で最もホットな領域が、レベル4の特徴表現学習で、「ディープラーニング」とも呼ばれます。
本通信で、以前(第257号2014年7月16日)取り上げましたが、物流業界で「ディープラーニング」に期待される技術のひとつが、自動車の自動運転です。同技術を先駆的に開発しているグーグルは、市販車にシステムを積んだ車でこれまでにカリフォルニアなどの道路で100万マイル(161万キロ)走らせ、今年は独自設計の試作車で公道テストを開始するそうです。
トロッコ問題
しかし、松尾氏は雑誌(注4)の対談で、自動運転に関する重要な問題を提起しています。
氏曰く、「人工知能」には、「計算の目的」を教えることが重要になるそうです。その上で、例えば自動運転であれば、「事故を起こしてはいけない」と教えたとします。そのために最小化すべき目的関数を「人工知能」に与えなければいけないのですが、では、その目的関数は何にすれば良いのか。事故の件数なのか、死亡者の数か、それとも死亡者、重症者、軽傷者にそれぞれ比重を付けて合計したものか。つまり、「1人が死亡するのと、10人が負傷するのと、どちらを選ぶのか」という問題です。もっと具体的にいうと、例えば自動運転で走っている車がバスと衝突しそうになった。このまま真っ直ぐにぶつかると、バスの乗客の多くに負傷者が出てしまう。一方、斜めにぶつかって車だけがひっくり返るのであれば、乗っている一人が死亡するけれども、バスの乗客は全員無事。さらに、歩道に乗り上げれば衝突は免れるけれども、歩道には通行人が歩いている。このような胃の痛くなるような状況判断をどのようにするのかという問題です。つまり、「人工知能」技術の開発は、これまで深く意識しなかった難問を突き付けられると同時に、私たちの「倫理」や「価値観」を問われる事態にもなってきていると氏は指摘します。
個人的には、労働力不足が深刻な物流業界において活躍する「人工知能」に、大きな夢と期待を寄せている一人ですが、と同時にこうした重要な課題にも目を向けていきたいと思います。
(文責:貞 勝利)
注1.2014年12月BBCでのインタビュー
注2.「人工知能は人間を超えるか」(著者:松尾豊、角川EPUB選書、2015年3月10日発行)
注3.機械学習をする際のデータを表すために使われる変数(特徴量と呼ばれる)自体を学習すること。
注4.「COURRIER JAPAN Vol.126」(講談社、2015年5月1日発行)
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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第283号 2015年5月20日)