自動車運送事業の監査方針・行政処分の基準改正

「自動車運送事業者に対する監督のあり方に関する検討会」設置の経緯

平成24年4月29日未明、群馬県内の関越自動車道において、高速ツアーバスが乗客45名を乗せて走行中、道路の左側壁に 衝突し、7名が死亡、38名が重軽傷を負うという重大な事故が発生しました。

この事故を受け、平成24年8月、国土交通省にて「自動車運送事業者に対する監督のあり方に関する検討会」を設置、その中で見直しの方向性が示され、自動車運送事業者の監査方針及び行政処分の基準についての改正が、平成25年10月1日より施行されました。

これは自動車運送事業の「安全管理体制の強化」が図られたもので、バス・タクシー・トラック事業者に対し、効率的・効果的な監査の実施及び実効性のある行政処分を実施するものとしています。

今までは、自動車運送事業者に対する監査体制が不十分で、効果的な行政処分も十分にできていなかった。このため、「国による法令遵守の指導が十分に行われていなかった」「悪質な事業者を把握しきれていなかった」「処分を受けても違反を繰り返す事業者が存在していた」などの問題点が顕在化していました。

改正内容

1.監査の強化《平成25年10月1日施行»

そこで今回の改正内容としては、

(1)悪質な事業者に対する集中的な監査実施

・監査端緒の充実を図りつつ、違反歴等の当該事業者に関する情報等を適切に把握し、重大かつ悪質な法令違反の疑いがある事業者に対して優先的に監査を実施・このため、各種通報、法令違反歴等を基に優先的に監査を実施する事業者及び継続的に監視していく事業者のリストを整備

(2)街頭監査を新設

・バス分野を念頭に街頭監査を新設
・利用者等からの情報や多客期等をとらえ、バスの発着場などにおいて、交替運転者の配置、運転者の飲酒、過労等の運行実態を点検

2.行政処分等の基準見直し

《平成25年11月1日施行、平成26年1月1日適用》

(1)悪質・重大な法令違反の処分の厳格化

【車両停止→事業停止30日間】

事業停止後も引き続き法令違反の改善なし【許可取消】その他、記録類の改ざん、交替運転者の配置違反、日雇運転者の選任等【処分量定引上】

(2)軽微な法令違反についての処分の軽減【車両停止→文書警告】

記録の記載不備等については、違反件数の多寡によらず文書警告等行政指導に留める

(3)運行管理者資格者証返納命令の厳格化

変更命令の適用事項見直し、運行管理者の名義貸しの禁止を明示等

「『荷主への勧告について』の細部取扱いについて」の改正

今回の改正は、実際に運送を行う自動車運送事業者(以下、実運送事業者とする)を念頭においたものですが、現実的な課題として、実運送事業者はコスト削減や引取時間、納入時間等を優先し、荷主ニーズに対応してきたため、ドライバーの拘束時間などの労働時間の基準等が守れていないことが、業界全体の認識となっていることが挙げられます。

こうしたタイミングで、平成20年より施行されている「『荷主への勧告について』の細部取扱いについて」が、今年4月1日より改正となることが決まりました。

荷主が、実運送事業者に対する優越的地位や継続的な取引関係を利用して行った勧告の対象となる行為の事例としては、以下の4点となります。

(1)非合理的な時間の設定(過労運転、最高速度超過)
(2)やむを得ない遅延に対するペナルティの設定(過労運転、最高速度超過)
(3)積込み前に貨物量を増やすような急な依頼(過積載運行)
(4)荷主管理に係る荷捌き場において、手待ち時間を恒常的に発生させているにも関わらず、実運送事業者の要請に対し通常行われるべき改善措置を行わないこと(過労運転、最高速度超過)

とされており、(4)は実運送事業者が管理するものではなく、荷主自身が管理し改善していく内容として、荷主管理の“荷捌き場”での“手待ち時間”などの具体的な表現が明記されていることと、今回の行政処分の基準改正の『乗務時間の基準に著しく違反』の項目も含めた中で、荷主への適用範囲が拡大していると考えられます。

今回の行政処分の改正により、実運送事業者としては事業停止30日間と非常に重い罰則となり、企業存続のためには厳格に法令を遵守していかなければなりません。特に、「業務時間の基準に著しく違反」の項目に含まれる労働時間の超過への対応は、最優先課題となります。
また一方では、荷主が運行に対して大きな影響力を有しており、その影響力が実運送事業者の違反行為につながった場合においては、まずは実運送事業者に責任はありますが、無理な運行を依頼したことが明確になれば、荷主に対しても是正勧告の対象となります。

以上のことを踏まえて、荷主企業の皆様においてもコンプライアンスへの対応に協力・改善して頂くと共に、それに係るコストを十分に理解して頂き、運賃適正化に向け社会全体が動き出すことを期待します。

 (文責:沖原)

【参考文献】
国土交通省自動車局: 自動車運送事業の監査方針・行政処分基準等の改正について(平成25年3月)
https://www.mlit.go.jp/common/000049608.pdf
国土交通省近畿運輸局: 自動車運送事業の監査方針・行政処分の基準が改正されました!(平成25年9月25日)
国土交通省自動車局:貨物自動車運送事業法における荷主勧告の運用通達を改正します!【報道・広報】(平成26年1月22日) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000065.html
国土交通省自動車局:「荷主への勧告について」の細部取扱について(平成20年3月28日付け国自貨第211号)
国土交通省自動車局:「荷主への勧告について」(平成26年1月22日付け国自貨102号) https://www.mlit.go.jp/common/001024706.pdf

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