ミクロな視点で考えるロジスティクス戦略:ファームステッドの急成長から考える

ウォーキングを始めて地域の見え方が変わった話

外出自粛が常態化する中で、私が住む地域では、運動不足解消のためにウォーキングやランニングを始めている人が増えているように見受けられます。東京都心とは違い、のどかな風景が広がる、いわゆる「田舎」といわれるような地域だからかもしれません。

ですので、普段の生活では、食事を楽しむ豊富なお店の数や、お洒落なカフェのようなものとは無縁と思っていました。

ところが、私自身も頻繁にウォーキングをするようになり、いろいろなコースを歩いて散策していると、思わぬ場所にレストラン(というよりお食事処)を見つけたり、奇麗なガーデニングのお宅の前を通りかかったり、歴史を感じる建築物に出くわしたりと、驚くほど新しい発見が多く、楽しい日課の一つになっています。おそらく、ウォーキングを始めた多くの方がこのような体験をしているのではないでしょうか。

マイクロツーリズムの提案とファームステッドの成功

以前にも紹介したことがある星野リゾート代表の星野佳路氏は、コロナ影響によって失われた、インバウンドによる観光需要が完全に回復するのは、1年程度かかるのではないかとしながら、「マイクロツーリズム」という企画を提案しています。

これは、自分の住む地元地域から10分、30分、1時間程度で移動できる周囲の観光を楽しもうというものです。そのメリットとして、一つ目はもともとそれなりの需要があること。二つ目は県を跨がないので、ウィルス拡散につながらない。三つ目は観光産業に従事する人材の雇用を維持できる。最後の四つ目は、地元の良さを改めて発見することだとしています。

これまで観光といえば、インバウンドに期待し、どちらかといえば国内におけるさまざまな観光地や遠い海外に目を向けてきました。しかし、この最後のメリットは、そのうち回復すると考えられるインバウンド需要に対して、日本の各地を訪れた観光客に、地元をよく知る方々が増えていることで、これまで以上に日本の魅力を発信できるということにつながるというのです。

確かに、コロナ影響前にみられたインバウンド需要には変化が見られました。いわゆる「モノ」消費から「コト」消費への変化で、日本のさまざまな地域を訪れて、日本の文化に直接触れるというものです。ところが、その地域の方々自身があまりその文化を知らないという現象が起きていました。そういう意味で「マイクロツーリズム」はインバウンド需要の後押しをすることになるかもしれません。

昨年の日本経済新聞に、米国の宅配企業「ファームステッド」の記事が掲載されていました。

米国のヤフーで働くプラディープ・エランクマラン氏が2歳の子育てに苦労していたことをきっかけに、友人らと立ち上げたのが生鮮品をネット宅配するスタートアップの「ファームステッド」です。事業内容はネットで注文を受けた商品を契約ドライバーが1時間以内に宅配するというもので、手数料を除けば値段はスーパー並みで、頼んだその日にすぐ届くというのが強みですが、他社との大きな違いはその「小ささ」にあるといいます。

配送エリアは16メートル四方の倉庫を拠点に、そこから半径10キロメートル程度に限定。品ぞろえも地域で取れた野菜や卵など大規模スーパーの20分の1の約1500点にとどめたそうです。消費行動が似た顧客を小さな商圏内で囲い込んだことで、需要を人工知能(AI)で予測して在庫増も避け、創業3年足らずながら同社の小商圏の数はシリコンバレー全域をカバーできるまでに増えたというのです。

また、そうした最新技術による合理性ばかりでなく、「顧客の声」を最重要データと位置づける現場感覚も重要としている点に関心を持ちました。ある時、同社のお客の間でジュース向けの熟れたバナナを求める声が多く出たそうで、腐る寸前のバナナを扱ったところ注文が急増。結果的にさまざまな状態のバナナを在庫に持ちやすくなり、廃棄率減少にもつながったそうです。「困ったらAIでなくお客に聞く」とのエランクマラン氏の言葉が紹介されていました。

「物流」とは量の科学といわれることから、企業はスケールを重視し様々な効率化を図ってきました。また、省力化や自動化の話題が尽きない企業のデジタル化についても、最新の情報が溢れています。しかし、実際の担い手となっているほとんどの物流事業者は地元密着型のローカル企業であり、新技術の投資もままならない経営実態であることも否めません。先に紹介した星野リゾートの「マイクロツーリズム」や、「ファームステッド」のように、いま一番期待されるのは、足元のニーズをアナログな情報から知ることなのかもしれません。

(文責:貞 勝利)

参考:   ワールドビジネスサテライト(テレビ東京2020年4月23日放送)
日本経済新聞朝刊(2019年2月11日付)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第433号 2020年7月8日)