以前の記事ではDX化の流れの中で、物流システムの刷新の動きが高まっていることをご紹介し、システム導入時のユーザー受入テスト(User Acceptance Test、以下「UAT」)におけるチェックポイントをご紹介しました。
直近でも、物流システム刷新やシステム新規導入に関するご相談をいただく機会が増えています。物流担当の方々から、そういったご相談を聞かせていただいた中で共通していたのが、「会社の経営層から物流システム刷新のプロジェクトを任されたが、どう進めてよいかわからない」といった声でした。今回はそういった悩みをお持ちの方向けに、システム導入手法の基本についてご紹介させていただきたいと思います。
1.システム導入の方法論
システム導入の方法論には、ウォーターフォール開発とアジャイル開発の大きく2つがあります。
ウォーターフォール開発
ウォーターフォール開発は、1980年前後にアメリカで提唱された手法で、設計・開発工程とテスト工程をV字型に対応させた「V字モデル」として知られています。プロセスの名称や対応関係には多少の違いがありますが、概ね以下のような図で表されます。

スタートは左上の要求事項からになります。ここは物流業務としてどういった条件が達成されないといけないのか、どういったシステムを作る必要があるのかを明確にする工程です。現状把握をした上で、新運用でどういったことを実現するのかを決め、RFP(Request for Proposal:提案依頼書)の形にまとめることが多いです。
※開発を社外ベンダーに委託する場合はRFPが一般的ですが、自社開発の場合は内部向けの要件整理資料となることもあります。
この工程の内容の良し悪しによって後の工程でのギャップや手戻りの発生状況が変わってくるため、最初の段階でしっかりと要件を整理しておくことが非常に重要です。この工程でのチェックポイントも多くあるのですが、そのご紹介はまた別の機会にさせていただければと思います。
要求事項の次は、要件定義です。要求の内容を受けて、こういった業務を行い、そのためにはこういったシステムが必要だということを明確にする工程です。要件定義とこの後のシステム設計・開発の間で要件凍結を行い、開発するシステムの範囲や機能を一度この時点で確定させます。
要件定義でシステム開発の大枠が決まったら、ここから先は基本的にシステムベンダーの領域となります。基本設計、詳細設計、開発と進み、システムが出来上がってきたら、それぞれの設計工程に対しテストを行います。 SIT(System Integration Test:システム統合テスト)まではシステムベンダーが主体であることが多いです。
そして、システムが出来上がってきたらいよいよUAT(User Acceptance Test:ユーザー受入テスト)です。UATは、実際に物流業務に携わるユーザーがそのシステムで運用が滞りなく遂行できるかを確認する工程です。この工程でOKの判定がでれば、システム切替えに進みます。
右側のテスト工程では、左側の設計開発で作成したドキュメントに対して結果を確認していくため、確認のポイントはドキュメントをベースにOK/NGを判断します。NGの項目が出てきた場合は、それが次工程を実施するのに致命的なものなのか、代替案はあるかの確認を行います。
以上がウォーターフォール開発の全体像になります。
アジャイル開発
一方、アジャイル開発は、短い期間(一般的に1〜4週間)の「スプリント」と呼ばれる単位で、設計・開発・テストを小さく繰り返す手法です。変化の多い環境や要件が流動的なプロジェクトに適しており、途中でユーザーからのフィードバックを反映しながら開発を進めていける柔軟さが特長です。
たとえば、まず必要最低限の機能でプロトタイプを開発し、ユーザーと確認しながら段階的に改善していく、といった進め方が可能です。これは、仕様変更への対応力や投入までのスピード感を重視する場面で有効です。
ただし、全体像の把握や進捗の見通しが難しくなる場合もあるため、プロジェクトの性質や組織体制によっては、ウォーターフォール開発のほうが適しているケースも少なくありません。
2.ウォーターフォール開発のメリット・デメリット
ここまで説明してきたウォーターフォール開発ですが、この手法を用いることで開発・導入プロセスが明確になり、進捗管理やエビデンス(IT分野では、システム開発のテスト工程などで、システムが正しく動作している、あるいは不具合が生じたことを示す証拠となる書類やデータのこと)の管理がしやすくなります。また、一つの開発工程が完了してから次の工程に進むため、品質が担保され、開発の手戻りも少なく済むというメリットがあります。
一方で、課題を解消しないと次の工程に進めず、検討期間が長引くことがあります。この点では、柔軟性や機動性の面でアジャイル開発に劣る側面があります。
もっとも、アジャイル開発でも要求→要件定義→設計→開発→テストといったサイクルは繰り返されており、基本構造に大きな違いがあるわけではありません。システム導入を推進するうえでは、まず流れがわかりやすいV字モデルを基本として理解し、その特性と課題を踏まえて検討を進めていくことが重要です。
3.まとめ
ここまで主にシステム導入手法として、ウォーターフォール開発の全体像について説明してきました。何のイメージもなく検討を進めるよりも、こういった既定の手法を知った上で検討に臨めば、プロジェクト管理や推進がしやすくなるといます。システム導入のプロジェクト推進に悩む方にとって、このコラムがお役に立てれば幸いです。
(文責:渡辺)
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