コロナ禍だからこそ学びたい産業財(BtoB)マーケティング7 「顧客理解の軸となる顧客のインサイト」

前回はマーケティング戦略構築における現状分析(ステップ1)の顧客分析の全体像と市場セグメントがテーマでした。

今回は顧客分析の顧客のインサイト(潜在的欲求)とニーズについて説明したいと思います。

顧客のインサイトとは

読者の皆さんは日々の活動でこういった不満の声を耳にしたことはないでしょうか。

・RFPの記載した内容以上のことを物流事業者が提案してこない(荷主企業担当者)
・荷主企業が何を求めているのか言ってくれないので困る(物流企業担当者)

顧客のインサイトやニーズへの理解が不十分なことが、上記のような不満の声を引き起こしているケースも少なくありません。

顧客のインサイトを一言でいうと、「顧客がその行動(物流事業者の選定等)を起こさざるを得なくなった背景や動機」です。具体例としては、顧客における基本戦略の変更や外部環境の変化が挙げられます。顧客の内部や世の中の変化によって、新たな問題が顕在化したため、解決するための手段を顧客は探しているのです。ニーズとは、問題を認識しつつも解決手段が明確になっていない状態を指します。

物流事業者選定プロセスにおいて、物流事業者がRFP(提案依頼書)を受領した段階で、既に顧客のインサイトやニーズはスペックに落とし込まれています。RFPの冒頭部分にはインサイトやニーズに関する手がかりが記載されているものの、具体的な要件への理解が優先されてしまっているのが実情ではないでしょうか。

正確な提案をするにあたって、スペックを理解することは必要不可欠です。しかしながら、より顧客に響く提案をするためには、スペックの背景にあるインサイトやニーズを理解しなければなりません。顧客のインサイトやニーズを把握する努力を怠れば、将来的に冒頭で挙げたような不満の声を生じさせる原因にもなりかねません。顧客理解に向けた活動の第一歩として、顧客視点で購買プロセスを洗い出してみるのも良いでしょう。

顧客の視点から自社の営業活動を観察することで、新たな発見があるはずです。また、顧客理解のスピードと質を高めるための施策として、荷主企業と物流事業者の双方を理解した外部専門家の活用も検討する価値があります。外部の力を活用することで、自社の人員だけでは気付けないような問題を発見できるかもしれません。

今回は顧客のインサイトとニーズについて説明しました。「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の有名な一節にもあるように、現状分析にあたって自社と顧客だけでは不十分です。次回は競合分析について紹介したいと思います。

(文責:野尻 達郎)

【参考資料】
『産業財マーケティング・マネジメント(理論編)』マイケル・D・ハット、トーマス・W・スペイ『戦略的産業財マーケティング』笠原英一
「3PL事業におけるマーケティング1」『流通ネットワーキング』,324号,pp.58-62 野尻達郎

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