はじめに
ウォルマートは、世界最大級の小売事業者として、低価格戦略を維持しながら力強い経営方針を示し続けています。特に米中貿易摩擦の影響を受ける中でも、その物流戦略と価格維持のための取り組みが注目されています。これらの事例から、物流を経営視点で捉える重要性について考察します。
強気の経営方針と物流改革
日本経済新聞の記事(2025年5月10日付)によると、ウォルマートは米中貿易摩擦においても低価格戦略を貫き、追加関税が課された際も、低価格維持を第一とし、サプライチェーン改革を推進したとありました。
具体的には、生鮮品の国内調達を強化し、中国からの調達依存度を下げることで影響を最小化したとのことです。実際、販売する商品の輸入比率は現在約3分の1にまで減少し、2018年には輸入品に占めていた中国産比率が8割だったのに対し、現在は6割まで低下しています。
また、中国の納入事業者に対しては、値下げを要求する一方で、応じた企業には中国国内の店舗での取り扱い拡大を保証するなど、巧みな交渉戦略を展開しています。こうした「アメ」と「ムチ」を使い分けたアプローチが、低価格維持を支える原動力となっているようです。
物流を経営戦略と位置づける意義
ウォルマートは、物流を単なるコストセンターとしてではなく、経営の根幹に位置づけていることでも有名です。実際に本社の経営会議には、日本を含む各国の物流責任者が参加し、IT企業やスタートアップ企業と共に物流革新を模索しています。
例えば、店舗ごとの商品構成を販売データや外部データ(天候、イベント、地域特性)に基づいて最適化し、ユニット・コントロールやAIを活用したデータマイニング(大量のデータから統計手法やAIにより有用な知識やパターンを発見する技術)により、店舗別に異なる陳列SKUや棚割りを実現するなど、店内物流にも革新が見られます。
一方で、日本国内の企業では、物流部門が購買部門や営業部門の傘下にあるケースが多く、物流を経営レベルで組織化していることが少ないのが実態です。物流の責任者が経営会議に参加しないことで、物流が戦略的役割を担えず、結果的にコスト削減の手段に留まっているのが実情です。このままでは、環境変化への対応に遅れ、物流が抱える課題が、直接経営に大きな影響を及ぼすことも想定されます。
物流戦略に対する日本企業への示唆
2025年の「改正物流効率化法」の施行により、一定規模の荷主企業には物流統括管理者の設置が義務付けられ、物流を経営視点で捉える体制が求められています。しかし、多くの企業ではその必要性が十分に認識されておらず、また着手方法が不明瞭との声も多く聞かれます。ウォルマートのように、物流を経営戦略の一部として位置づけ、経営陣と物流部門が一体となって戦略を練ることが、これからの日本企業にも必要です。物流は単なるコスト削減の対象ではなく、競争優位性を支える戦略資源であるという認識が重要だと考えます。
さまざまな社会課題を抱えている物流業界ですが、その要因には、こうした認識が多くの日本企業に不足していたことも、否めない事実なのではないでしょうか。これから益々激しさが増すであろう環境変化に柔軟に対応し、持続可能な経営基盤を築くために、今こそ力強い物流戦略を構築する絶好の機会だと捉えるべきでしょう。
(文責:貞 勝利)
(参考)
・日本経済新聞 2025年5月10日付
・日経MJ 2024年8月9日付
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