ドラッグストアに化粧品メーカーの看板が掲示されている理由
537号を担当します福田です。
先日、ドラッグストアのウエルシアホールディングスとツルハホールディングスの経営統合へ向けて協議開始が発表されました。これまでは大手が地域のドラッグストアを買収することが多かったのですが、ドラッグストア市場が飽和状態に近づきつつある中で、今後こうした大手同士の統合は加速していくかも知れません。
話は変わりますが、ドラッグストアに買い物に行くと、その会社の看板とは別に特定の化粧品メーカーの看板が掲示されているのを目にすると思います。何故だかご存じでしょうか?
その理由は、流通経路の違いにあります。
化粧品は流通経路によって「一般化粧品」と「制度化粧品」に分けられます。
「一般化粧品」はメーカーから問屋を経由し、それを小売が販売しているのに対し、「制度化粧品」はメーカーが問屋を介さずに小売と直接販売契約を結び、制度化粧品メーカーの販売員が店舗で対面販売を行います。このメーカーとの契約には様々な制約・制度があり、小売価格の設定も制度化粧品メーカーが管理しています。ドラッグストアなどのチェーンストアも基本的には個店ごとに直接販売契約を結んでいるため、看板の掲示が可能なのです。
何故、制度化粧品が生まれたのか
それでは、なぜ制度化粧品がこのような流通経路(販売制度)を取るようになったのでしょうか。
制度化粧品は、1953年(昭和28年)に施行された「再販制度」(注記1)の一環として誕生しました。戦後間もない頃、安売り合戦が頻発し経営が苦しくなった小売店が多く廃業していました。さらに、利益減少によりメーカーが製造原価の安い「粗悪品」を流通させ、健康被害が発生する事態も起きていました。再販制度は「定価販売」を維持するための法律であり、主にドラッグストアで取り扱われる「化粧品」「医薬品(市販薬)」を対象として、戦後の混乱期における化粧品の乱売合戦(安売り)を防ぐために導入されました。
1997年(平成9年)に再販制度は撤廃されましたが、ノープリントプライス制(注記2)の導入等により安売りは抑制され、品質とブランドイメージを維持する制度化粧品の仕組みは今も続いています。
現在は、コロナ禍や韓国コスメの流行等の消費者ニーズの変化に伴い、各制度化粧品メーカーは新たな販売チャネルを模索しているようです。
今回は化粧品を例に挙げましたが、業界ごとに固有の流通構造が存在します。サプライチェーンの構築においては、その流通形態/構造の歴史的な推移や実状を十分把握することが大切です。消費者のニーズの変化に合わせて長所を存続させつつ、新たなモデルの検討を進めることが重要であると思います。
注記1: 正式には「再販売価格維持制度」といい、メーカーが卸売業者、小売業者の販売価格を指示・拘束することを法的に許容する制度のこと。 再販売価格維持は本来、独占禁止法上は禁止されているが、1953年の独占禁止法の改正で化粧品や医薬品などを中心に一部商品について例外的に認められた。その後、物価問題との関連で再販規制が強化されたが1999年に全廃された。ただし、書籍・雑誌・新聞・音楽CD・音楽テープ・レコードの6品目の商品は著作権保護の観点から定価販売が認められている。
注記2:商品やパッケージに定価を表示しない方式。メーカーから各小売店に対して、書面などで「参考価格(小売店の価格付けの参考にしてもらうための価格)」が提示される。これにより小売りは定価の○○割引という安売りが出来なくなった。
(文責:福田 浩貴)
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