近年、AIの進化によって、私たちは情報収集や文章作成、さらには意思決定のヒントまで手軽に得られるようになりました。一方で、AIがさまざまな選択肢を提示してくれるからこそ、最後に何を信じ、何を選ぶかという「選択する力」は、これまで以上に重要になっています。
前回に続き『勘違いが人を動かすー教養としての行動経済学入門ー』という書籍から、人はどのような基準で選択し、その判断は本当に合理的なのかについて考えてみたいと思います。

1.ブランドイメージの影響力
皆さんはプラシーボ効果をご存じですか。「プラシーボとは薬の開発時の試験で本物の薬の反応を比較する際に使われる何の効果もない偽薬のこと」だそうです。医薬品の臨床試験で、その有用性や安全性を確認するためにプラシーボ(偽薬)が使用されるそうです。プラシーボは「痛みやストレス、無気力などに対しては、良い効果をもたらすことがある」そうで、「投与された人が、プラシーボだとわかっていても、何も飲まなかった場合より良い効果が起きることもある」とのことです。本当に人間の脳の働きは不思議です。
本書では、「ブランドは、ある意味で究極のプラシーボだ。」と紹介されていますが、確かに、ブランド品というだけで特有の価値と信頼が生まれます。食品なら美味しく感じられ、装飾品ならデザイン性に長けていると感じられ、大手企業なら安心という信頼感もあります。企業にとって、企業ブランドの創造がいかに重要であるか、よくわかります。
2.人を誘導する選択アーキテクチャ
「私たちは高い金を払って有名ブランドのトースターを買い、レンタカーに割高な保険をかける、退屈な仕事にしがみつき、馴染みのレストランにばかり通う。すべては人類が進化の過程で身につけた、リスク回避の傾向がもたらしたものだ」
何とも耳の痛い言葉です。人の脳は、好みがはっきりしていない場合や、選択肢の対象に馴染みがない場合、選択肢が似通っている場合、比べるのが難しい場合などは、選択肢が多いことがストレスになる傾向があります。選択はしたくないけど選択肢は欲しい、というわがままな心理を利用して、選択させたい方へ誘導することを選択アーキテクチャ(環境設計)というそうです。選択させたい選択肢より見劣りする選択肢を設定し、こちらの方がいいよねという感じで、「選択するかしないか」という最大の選択を意識させずに「選択すること」を選ばせるのだそうです。
そういわれてみると、様々な商品で一番無難でお得なパックが用意されていて、ついついそれを選択しているような気がします。ECサイトでの購入履歴や閲覧履歴をもとに予測AIがおすすめを表示する商品レコメンドなど、ネット上ではこのような選択が広がっているのではないでしょうか。知らず知らずのうちに、選択すらしなくてもいいものを選択させられている可能性もありますよね。
3.選択を難しくしている自然リスクバイアス
私がすごく納得した現象の一つに自然リスクバイアスがあります。これは、「人は自ら求めたりつくり出したりしたリスクよりも、自然に存在するリスクを受け入れやすい」ことであり、「薬やワクチン、治療によって生じる副作用や合併症のリスクは極めて少ない。だが、病気の結果として自然に負うことになるリスクと比べて、患者はこれらの人工的なリスクを強く恐れる」ことを例に挙げています。
子供に関する決定はすべてに迷いや恐れが付きまとい、日本小児科学会が推奨している予防接種でさえ、受けさせるべきか、受けてから副反応が出たらどうしようかという恐怖心を抱きます。余計なことをしたせいで本来は発生し得なかった悪い結果が生じることは、自然現象のように運命としては受け入れられないのでしょう。自分の判断のせいで起きたことには、責任を感じてしまうものだと思います。
4.人に求められる選択する力
人が何かを選択する際には、様々な要素から影響を受けていることがわかりました。私たちは、何かを選択することで「選ばなかった方の選択肢を逃すこと」を恐れる傾向にあり、何かを逃すことに対する恐怖が強いそうです。とはいえ、人生は選択の連続で、その結果が現在の私たちです。あの時、選択しなかったことで現在があり、この現状を悔やむよりも、今の選択を誤らないことが大切です。本書では「私たちはたいてい後悔を過度に大きく見積もっている」とし、「いつまでも決断を先延ばしにして状況を悪化させるより、間違えてもいいから決断してしまうほうがいい」とあります。未来の後悔を恐れるより、今決断しないことの後悔の方が大きいということなのでしょう。結局何が正解かはわかるはずもありませんが、決断のタイミングを逃さないようにしたいですね。
一方で、AIの進化は、私たちの選択を減らすようでいて、実は新たな選択を増やしているのかもしれません。情報を集め、比較し、文章のたたき台まで作ってくれるからこそ、最後に何を信じ、どう使うかは、これまで以上に人間の判断に委ねられます。AIが出した答えだから正しいだろう、提示された選択肢の中から選べばいいだろう、お勧めされた選択肢で十分だろう、と思考停止しないことが大切です。
企業にとっても、AIをどう使うかはブランドイメージに直結します。顧客対応や情報発信の質を高めれば、「先進的で信頼できる会社」という印象につながりますが、誤った情報や機械的すぎる対応は、築いてきた信頼を損なうことにもなりかねません。
AI時代のブランド価値は、技術の高さだけでなく、その技術をどれだけ誠実に使えるかで決まっていくのではないでしょうか。AIのスピードに助けられながらも、判断と選択を急かされる場面は増えていくかもしれません。それでも、便利さに流されず、選択の主導権を持ち続けていきたいと思います。
(文責:小出)
(参考)
『勘違いが人を動かす -教養としての行動経済学入門-』、エヴァ・ファン・デン・ブルック&ティム・デン・ハイヤー著、児島 修訳、ダイヤモンド社
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★掲載された記事の内容を許可なく転載することはご遠慮ください。
ロジ・ソリューションでは、物流に関するいろいろなご支援をさせていただいております。何かお困りのことがありましたらぜひお声掛けください。(お問い合わせはこちら)
(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第608号 2026年8月5日)
