物流業界では、少子高齢化や労働力人口の減少を背景に、人材不足が深刻化しています。特にドライバーや倉庫作業員の確保は年々難しくなっており、人材確保は多くの企業にとって重要な経営課題となっています。
実際に物流センターの立上げや現場運営に携わる中でも、外国人スタッフを見かける機会が年々増えていると感じています。
こうした状況を受け、政府は外国人材の受入れ拡大に向けた制度整備を進めています。また、従来の技能実習制度についても、制度趣旨と実態との乖離や人材定着の観点から見直しが進められており、外国人材を中長期的な戦力として活用する方向へ制度改正が進んでいます。
本稿では、特に物流業界に関わりの深い「特定技能」の対象分野追加と、現行の技能実習制度に代わる「育成就労制度」の創設を中心に、今後の動向と事業者に求められる対応について紹介します。
物流倉庫分野が特定技能の対象へ
外国人材活用の拡大を後押ししているのが、特定技能制度の対象分野拡大です。
2024年3月には、特定技能1号の対象分野に「自動車運送業」が追加されました。また、2027年4月には「物流倉庫分野」の追加も予定されています。
特定技能とは、人手不足が深刻な産業分野において、一定の技能や日本語能力を持つ外国人材の就労を認める在留資格です。
「物流倉庫分野」では、倉庫内オペレーションを担う外国人材の受入れが可能となります。
対象業務には、ピッキング、仕分け、検品、梱包、入出庫管理、在庫管理、棚卸し、流通加工などが含まれており、倉庫内における入庫から出庫までの主要業務が対象となります。
また、国は制度開始後3年間で11,400人の受入れを見込んでおり、物流業界の人手不足解消に向けて外国人材活用を本格的に進めようとしていることがうかがえます。
技能実習から育成就労へ
2027年には技能実習制度に代わる「育成就労制度」の開始も予定されています。
技能実習制度は本来、開発途上国への技能移転を通じた国際貢献を目的とした制度でした。しかし実際には、人手不足を補う労働力として活用されるケースも多く、制度趣旨と実態との乖離が指摘されていました。また、原則として転籍が認められていないことから、一部では労働環境に関する問題も指摘されていました。
こうした背景を踏まえ、新たに創設されるのが育成就労制度です。育成就労制度では、人材育成と人材確保を目的としており、一定の要件を満たせば転籍も可能となります。また、育成就労から特定技能への移行も想定されており、外国人材を中長期的な戦力として育成・定着させていく制度として位置付けられています。
こうした制度改正により、物流業界では外国人材活用を短期的な人員補充ではなく、中長期的な戦力化の手段として捉える必要性が高まっています。
実際に、センコーグループホールディングスでは、2032年までに特定技能外国人ドライバー100名の採用を計画しています。採用後の教育やOJTを前提とした人材育成を進めており、外国人材を将来の戦力として育成する方向性を示しています。
外国人材活用で本当に課題となること
一方で、外国人材を受け入れれば人手不足が解決するというほど単純ではありません。
特定技能1号では、日本語能力としてJLPT(日本語能力試験)N4以上、またはJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)A2相当が求められています。


しかし、制度上の要件を満たしていても、物流現場で求められる指示理解や安全確認、品質基準の共有という観点では十分とはいえない場面もあります。
厚生労働省の「令和6年外国人雇用実態調査」でも、「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が事業者側の課題として最も多く挙げられています。
物流現場では、この課題は単なる会話の問題ではありません。作業指示が正確に伝わらなければ誤出荷などの品質事故につながる可能性があります。また、危険エリアでの行動ルールやフォークリフト周辺での注意事項が十分に共有されなければ、安全リスクも高まります。
さらに、日本人同士では暗黙知として共有されている「急ぎで」「いつも通りに」といった曖昧な指示や、荷主ごとの品質基準の違いは、言語や文化的背景が異なる人材には伝わりにくい場合があります。
つまり、外国人材活用における本質的な課題は採用そのものではなく、教育と戦力化にあるといえるでしょう。
物流現場で求められる対応
こうした課題に対応するためには、教育や職場運営の仕組みを整備することが重要です。
(1)マニュアルの整備
多言語のマニュアルを作成することで、物流用語、作業手順や安全上の注意点など、理解のずれが生じやすい内容を視覚的に整理して伝えやすくなります。整備にあたっては、翻訳ツールだけに依存せず、やさしい日本語の活用や重要語句の統一をしたうえで、指差し確認や復唱の徹底などを内容に含めることが重要です。さらに、写真や動画を用いれば、入出荷、検品、ピッキング、積込み補助といった作業の流れを言語に頼りすぎず共有することができます。
突然の担当者変更によるリスクに備えるために~業務マニュアル作成による業務の可視化~ 最低限の人員での業務を強いられがちな物流現場550号を担当いたします松本です。 昨今の物流現場では、コスト削減や労働力不足 logi-solu.co.jp
(2)習熟度テストの実施
マニュアルを整備するだけでなく、習熟度テストを実施することで、理解が不十分な点を把握しやすくなります。これにより、誰がどの業務をどの水準まで担えるかを明確にし、教育・評価・配置を連動させながら、定着と戦力化を進めやすくなります。あわせて、現場の品質事故や安全リスクの予防にもつながります。
(3)相談しやすい職場づくり
外国人材の定着には、日常的に声を掛けやすい職場環境づくりも欠かせません。例えば、役職や社歴にかかわらず話しかけやすい雰囲気をつくることは、新たに入社した人材が周囲に相談しやすくなる点で有効です。実際に、社内で役職名や本名だけでなくニックネームを用いることで、心理的な距離を縮める工夫をしている企業もあります。
おわりに
本稿では、物流業界における外国人材受入れ制度の拡大を踏まえ、制度改正の概要と現場で想定される課題、対応策を紹介しました。今後は、採用の可否だけでなく、受入れた外国人材をいかに品質・安全を保ちながら教育し、定着・戦力化につなげていくかが重要になります。事業者には、制度の理解に加え、自社の現場に合った受入れ体制を整えていくことが求められます。
外国人材活用をきっかけとして、自社の教育体制や現場運営のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。
(文責:中塚)
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(参考)
在留資格特定技能(外務省)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/index.html
自動車運送業分野における特定技能外国人の受入れについて(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk1_000038.html特定技能外国人を受け入れるまで(外務省)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/introduction/
物流倉庫分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針 別紙12(法務省・関係省庁)https://www.moj.go.jp/isa/content/001454699.pdf
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書(出入国管理庁)https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/kaigi/dai17/siryou1-2.pdf
センコーGHD、外国人ドライバー100人採用へ(カーゴニュース)https://cargo-news.co.jp/cargo-news-main/4862
日本語能力試験JLPT(日本語能力試験公式)https://www.jlpt.jp/index.html(図1、図2)
令和6年外国人雇用実態調査の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001552246.pdf
