最先端の「再生医療」技術を支える一員に!

いま、「再生医療」が注目されています。読者の中に医療関係者の方がおられましたら、大変稚拙な説明に感じられるかと思いますが、以下「再生医療」の概要について少し触れたいと思います。

「再生医療」とは、体のどんな細胞にも育つ万能細胞などをもとに事故や病気で失った組織や臓器を作り直す医療技術のことです。現在行われている臓器提供による移植と異なり、神経や心臓の細胞を新しく育てて、傷んだ組織や臓器の働きを取り戻すことができます。この万能細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)と、新型万能細胞(iPS細胞)があります。
海外ではES細胞を使って目の難病や脊髄損傷の治療に向けた臨床試験(治験)が始まっていますが、先月、日本においても理化学研究所と住友化学の研究により、ES細胞から立体構造をした網膜組織を作製することに世界で初めて成功しました。これは、視力が衰える難病の網膜色素変性症の再生医療に道を開く大きな成果です。

しかし、このES細胞にはいくつかの課題が残されています。なかでも倫理面の課題は非常に重いものです。というのも、ES細胞を作るにはヒトの受精卵を必要とするのです。
つまり、受精卵を研究材料とし、それを壊してES細胞を得ること自体が許される行為なのか、ということです。アメリカでは、ES細胞研究に公的な研究費を出すことを禁止する動きや、キリスト教会の中にも受精卵を壊すことを前提としたES細胞の研究に反対する姿勢を示しているところもあります。

2006年8月、京都大学の山中伸弥教授はマウスでのiPS細胞の樹立を世界で初めて発表しました。2007年にはヒトで作製することにも成功しています。このiPS細胞とは、皮膚など体の細胞に特定の4つの遺伝子を入れることで生み出される、「受精卵」のようにあらゆる細胞に変わる性質を持つ「万能性」を持った細胞のことです。たとえて言えば、細胞を初期の状態に「リセットする」、「体内の時間を巻き戻す」、そういった“夢物語”を可能にする生命科学の技術です。
人間の身体は、わずか一個の受精卵が分裂を繰り返し、最終的に60兆個もの細胞で形作られていますが、分裂の過程で細胞は様々な組織や臓器へと分かれていき、決して受精卵のように元の状態に戻ることが出来ないとされてきました。その長年の科学的常識がiPS細胞によって覆されたのです。

アメリカのホワイトハウスはヒトiPS細胞の成功について、重要な研の前進をブッシュ大統領(当時)は大いに歓迎しているとしたうえで、「高度な科学と生命の聖域は、混同することなく解決できることを確信している」という異例の声明を発表しました。カトリックの総本山であるローマ法王庁は「受精卵を壊すことなく、多くの病気を治すことにつながる重要な発見です。これまでの議論も終わりになるでしょう。」と賞賛しています。
こうしたなか、2011年5月末、山中教授はノーベル生理学・医学賞の行方を占うとされるイスラエルのウルフ賞を受賞し、日本の生命科学技術の世界的なレベルが注目を浴びました。

弊社では、まだほんの一握りの領域にすぎませんが、この「再生医療」の現場に携わっています。先述の万能細胞ではありませんが、患者から採取した「脂肪細胞」を培養し、培養した細胞を再び患者に投与することで、糖尿病やパーキンソン病を治療するという「再生医療」の物流をサポートしています。具体的には、それぞれの細胞を適切な管理のもとで搬送しているのです。適切な管理とは、関係窓口での円滑な受渡処理を行い、細胞を搬送する際にダメージを与えない適切な温度帯を維持し、ほぼ100%に近い輸送品質でお届けするために、搬送事故のリスクをとことんまで回避することです。実際に搬送を担っている専門輸送事業者については、こうした検体輸送(細胞や血液等の輸送)に関する知識と実績をもった経験豊富なパートナーを選定しています。

このサービスを始めるに当たり、様々な医療機関や「再生医療」に参入しているベンチャー企業の方々にリサーチを行い、改めて認識したことがありました。それは、この最先端の医療技術である「再生医療」に関する物流の標準化が存在しないということです。それどころか、実態は驚くような手段を使って細胞が搬送されていることを知りました。
先日参加したあるセミナーで、日本の「再生医療」の第一人者であり、かつてNHKの番組「プロフェッショナルの流儀」でも紹介された東京女子医大の岡野光夫教授(日本再生医療学会理事長)は、「この世から、治らないと言われている病気を無くしたい!その為に多くの医療関係者が昼夜を分かたず格闘をしている。」と熱く語っていたのがとても印象的でした。こんな命をかけた人たちによって築き上げてこられた「再生医療」技術の現場を支える物流の実態は、全くといっていいほど整備が不十分なのです。
世界保健機構(WHO)は、2001年に米国で起きたバイオテロをきっかけに、「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス」という国際基準を定めており、国際間における検体輸送については、基本的に当該ガイダンスを基準に行われています。
しかし、国内においてはその基準は曖昧です。個人的には、今後、「再生医療」の分野においても、各種検体の輸送、搬送に関して、適切な管理基準を求められる時がくるのではないかと考えています。今月、日本政府は、「医療イノベーション5カ年戦略」を踏まえ、次世代医療として期待される「再生医療」について実用化までの手続きを緩和する検討に入り、早期実現に向け積極的に動き出しました。
様々な課題はあるものの、まさに「夢物語」だった最先端医療技術によって、これまで克服できなかった難病が、保険治療として施される日も目前まできています。
私たちは、ここまで築き上げてこられた「再生医療」に関わる技術者たちの血の滲むような努力を決して忘れることなく、陰で支える一員として、微力ながら少しでも貢献できるよう努力していこうと思います。

最後になりましたが、ロジ・ソリューションでは前述の通り、知識と実績をもった経験豊富なパートナーと共に徹底した品質管理のもとで検体輸送を行っております。また、移動時間内に必要とされる温度帯を確実に維持できるよう専用輸送BOXの開発にも携わっております。検体の輸送手段にお困りの際は、ぜひ当社をご用命ください。

 (文責:貞)

【参考】
「生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命」 NHK取材班著 文芸春秋社
日本経済新聞(6月6・8・9・14・24日付)
きょうのことば「再生医療 失った臓器新たに育てる」
日本経済新聞 2012年6月6日14版3頁
電子版創刊2周年フォーラム「日本経済成長への革新 iSP研究 鍵は人材」
日本経済新聞 2012年6月8日 28頁

「isp細胞から肝臓 マウス体内、再生医療に道」日本経済新聞 2012年6月9日12版 42頁
「再生医療道開くヒトES細胞で立体網膜」 日本経済新聞 2012年6月14日13版 38頁

WHO(世界保健機関)
感染性物質の輸送規則に関するガイダンス
内閣官房医療イノベーション推進室
医療イノベーション5カ年戦略
※情報は2012年7月18日時点のものです。

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第181号 2012年7月18日)

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