アフリカ物流の可能性 ― 貧困削減とビジネス拡大の交差点

585号を担当いたします林です。 

 突然ですが、皆様はジンバブエという国はご存じでしょうか。ジンバブエはアフリカ南部地域に位置する内陸国で、国民はフレンドリー、そして自然豊かな素敵な国です。
 私は海外旅行が好きで、数年前にアフリカ4カ国周遊ツアーに参加しました。その中で、特にジンバブエとボツワナの国境での光景が印象に残っています。サファリツアーで見損ねた野生のシマウマが国境付近を歩く光景もさることながら、その反対側を通関待ちの大型トラックが長蛇の列をなしている光景に衝撃を受けました。入国審査を通る私たちは、シマウマとトラックの群れの間を通り、数分程度で国境を超えることができましたが、後ほど現地の方に確認したところ、長蛇の列をなしているトラックは1週間ほど通関待ちで待機をする必要があるとのことでした。その一瞬の光景で、物流に課題を抱えているのだろうと思ったことが心に残り続けていたのは職業柄でしょうか。このジンバブエで見かけた光景は、南アフリカ全体に共通する課題でもあります。
 一方で、日本ではこうした光景はほとんど見られません。整備された物流網によって、輸送が長期間滞留することは稀です。
 途上国の物流の発展は、どれだけ人々の暮らしを豊かにするのか、と度々考えるのですが、本稿では、私が現地で感じた課題を手掛かりに、特に南アフリカ地域に焦点を当て、物流改善が社会とビジネス双方にどのような影響を及ぼすかを考察します。 

南アフリカ地域の貧困

 南アフリカ地域の現状についてです。世界銀行が地域毎の貧困率を発表していますが(表1)、2025年時点で東・南アフリカ地域の絶対的貧困率(1日あたり3ドル未満で生活する人の割合)は53.4%と世界で最も高い水準にあります。その南アフリカ地域の中で、4カ国の貧困率を表2に記載しました。参考までに、日本は2020年時点で1.21%となっています。

【表1:基準年2022年の貧困推計値:2024年9月版と2025年6月版の推計値の差異】
【表2:5カ国の絶対的貧困率】 

物流が与える影響

 貧困の状態については、地政学、気候、政治的な問題が複雑に絡み合っていると思いますが、貧困率を改善するためには、どうすれば良いでしょうか。膨大な数の施策が考えられると思いますが、その中の一つに「物流」が挙げられると思います。
 例えば、ジンバブエは農業と鉱業が主産業で、近年はインフラ整備や物流改善が国民生活向上の鍵とされています。輸送時間や輸送費を低減することが、物価の抑制につながり、経済成長の要となります。特に内陸国や農村地域の道路・輸送の改善が、生活コスト低下に直結します。農産物や生活必需品の流通が改善すると、農村住民の市場アクセスが拡大し、食糧不足の改善に結びつきます。
 さらに、輸送途中での農産物や生鮮品の廃棄ロスが削減され、農家の収入向上も実現することができます。世界銀行のレポートにも、エネルギーと並び、輸送・物流が包摂的成長や貧困削減に不可欠だと強調されています。物流の改善は単なる輸送効率化にとどまらず、地域経済の活性化と人々の暮らしを豊かにする、持続的な貧困削減への決定打となり得るのです。

事例:JICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力機構)のプロジェクト

 ここで、日本のJICAが実施したプロジェクトを一つご紹介したいと思います。JICAは技術協力で、「アフリカ地域南北回廊における円滑なOSBP(One Stop Border Post)運営管理能力強化プロジェクト」を実施しました。
 詳細を下記に記載します。 

 現時点ではこのプロジェクトの詳細レポートは開示されていませんが、まさに私が以前見かけた状況が、改善に向かって動き始めているのだと感じています。 

 LPI(Logistics Performance Index)という世界銀行が算出している、各国のロジスティクスのレベルを数値化したものがあります。

 日本は2023年時点でフランスやスペインと同水準のスコア(3.9)を獲得しています。欧州主要国と並ぶ評価を得ており、国際的にも高い物流水準を維持しています。つまり、日本の物流の技術やノウハウは、現場の非効率を改善する技術協力において大きな強みとなります。
 実際、JICAはアフリカ以外でも物流に関する多様なプロジェクトを実施しており、例えばベトナムでは日本の通関システム(NACCS)をモデルとした電子通関システムを導入し、通関時間を大幅に短縮するという具体的な結果を出しています。

 日本の経験を応用すれば、さらにアフリカの物流課題解決に貢献することは十分可能だと考えます。 

最後に

 国境の光景に象徴されるように、アフリカの物流にはまだ多くの課題が残されています。しかしその解決は、社会課題の改善とビジネス機会の拡大を同時に実現する可能性を秘めています。物流分野における国際的な協力や制度整備の動きが、持続的な物流環境の構築へとつながっていくことが期待されます。 

(文責:林 真奈美)

 (参考)

Poverty and Inequality Platform pip.worldbank.org

https://documents1.worldbank.org/curated/en/099510306052516849/pdf/IDU-eb272b02-ecd1-4633-9e37-9297e20a711c.pdf

Report | Logistics Performance Index (LPI) The LPI is an interactive benchmarking tool created to help c lpi.worldbank.org

アフリカ地域南北回廊における円滑なOSBP運営管理能力強化プロジェクト 【ODA見える化サイト】 OSBPは、内陸国境を越境する際に両国それぞれで行われていた手続きを1か所で行えるようにすること www.jica.go.jp

ザンビア随一の国際交通の要衝における通関時間が約3分の1に | 海外での取り組み - JICA

ザンビア随一の国際交通の要衝における通関時間が約3分の1に | 海外での取り組み – JICA www.jica.go.jp


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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第585号 2024年10月29日)

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