物流業界に身を置いていると、最近よく耳にするのが「トラック新法」という言葉。正式には、「改正貨物自動車運送事業法」として、2025年以降、段階的に施行が始まります。しかし結局、何がどう変わるのか?と聞かれて、スラスラ答えられる人はそう多くないかもしれません。
今回の改正は、ドライバー不足や物流の持続可能性を巡る課題に真正面から踏み込んだ、ここ数十年でもかなり大きな制度変更です。この機会に、今後施行されていく主な改正ポイントをかみ砕いて整理しておきたいと思います。
許可の5年更新制導入
これまで、トラック事業の営業許可は、基本的に一度取れば永久でした。ですが、2028年までに導入予定の新制度では、許可が5年ごとの更新制に切り替わります。
運行管理体制は整っているか、労務管理は適正か、安全対策に問題はないか、そういった観点で定期的に見直しが入るようになります。つまり、書類上だけでなく、運送会社の実態が問われるということです。
適正原価を下回る運賃の禁止
今回の改正の目玉の一つが、適正運賃の導入です。ドライバーの賃金、人件費、燃料、車両維持費など、必要経費を積み上げて算出された適正原価を下回るような運賃契約は違法となります。現場感覚ではぎりぎりの値段で受けざるを得ないといったケースもあるでしょう。しかし、こうした運賃ダンピングの積み重ねが、結果的に労働環境の悪化や離職を招いてきた事実も否定できません。荷主と運送事業者の関係性においても、値段交渉の在り方が大きく変わるはずです。
多重下請け制限への対応
元請→一次→二次→三次…といった“多重下請け”が当たり前になっていた業界構造にもメスが入ります。新法では、原則として再委託は二次までにとどめるよう求められます(※現時点では努力義務)。国としては、実際に運ぶ人(実運送事業者)と、契約する人(元請)がどれだけ離れているかを正確に把握したい。そこで実運送体制管理簿の作成・保存が義務化されるという仕組みも導入されます。形式だけの名義貸しや、不透明な再委託が厳しく見られる時代になるということです。
無許可事業者への委託禁止
もう一つ注目すべきは、無許可事業者との取引が荷主側にも罰則付きで禁止される点です。いわゆる白トラ(白ナンバー車での運送)を使った商流がまだ一部に存在しますが、これが明確に法律違反となり、荷主も是正勧告・社名公表の対象になる可能性があります。知らなかったでは済まされない時代になります。
労働者への能力評価に基づく処遇確保
ドライバーの賃金や教育訓練の整備といった“処遇改善”も、今後は経営者の努力目標ではなく、法律で求められる義務となります。特に許可更新の際、これらが整っていない企業は審査で不利になることが予想されます。人材確保の面でも、差が出てくるポイントでしょう。
改正法対応に向けた実務上の留意点と対応準備の必要性
今回の改正では、許可制度や原価制度の見直しに加え、違法委託の防止や労働者の処遇改善といった実務面への影響も大きく、今後の対応には一定の準備期間が求められます。以下に、主な改正項目を「義務の有無」と「施行時期」とともにまとめた一覧を示します。

これらの改正事項のうち、義務化される項目については、違反時には罰則や行政処分の対象となるため、各施行時期を見据えたうえでの早急な社内体制の見直しと準備が不可欠です。特に労働者の処遇確保や適正原価を下回る運賃の禁止といった項目は、社内対応にとどまらず、荷主や委託先との契約条件・運賃交渉にも直結する重要な論点となります。単なる制度対応に留まらず、自社の物流戦略全体を見直す機会と捉え、計画的かつ実効的な対応を進めていくことが求められます。
物流業界にとって今回の改正は、これまで通りでは通用しない新たなルールの始まりです。制度対応を面倒な義務として受け止めるのではなく、自社の業務体制を見直す絶好のタイミングと捉えることができれば、大きな変化の中でも確かな一歩を踏み出せるはずです。
施行までにはまだ時間がある項目も多くありますが、だからこそ今のうちから社内の課題と向き合い、準備を進めることが必要です。
(文責:倉持 裕晃)
【参考資料】
l 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html
l 衆法 第217回国会 33 貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21705033.htm
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