情報システム構築の70%は失敗!?:物流の情報システム構築の勘所を教えます

はじめに

1960年代後半のオフコンの登場以降に幕を開けた企業の情報化は、経理処理や受発注業務といった事務処理作業の合理化を中心に、ほとんどの産業で積極的に進められてきています

物流業界も例外ではなく、企業間EDIの構築や、バーコードとハンディーターミナルを使った入出荷検品システムなど、事務オペレーションの効率化や品質精度の向上に大きく寄与しています。

しかし、統計によると、IT投資が期待通りの効果を上げているとみる企業は全体の30%程度(参考:日経ソリューションビジネス2006年6月30日号 9ページ)と低い数値となっています。

昨今の物流業界を取り巻く環境は、荷主企業からの効率化要請、環境問題への対応等、一段と厳しさを増しており、物流企業はローコストオペレーション化や物流の領域を超えた多種多様なサービスの提供を実現し他社との差別化を図ることで生き残りをかけています。その成否を担うといっても過言ではないIT投資が、どのようなプロセスでシステム構築を進めれば期待通りの効果を上げるのか、「物流現場での実効性」をポイントに考察していきます。

IT投資効果の現状

少し前の話になりますが、国内の景気拡大が続き、業績を伸ばす企業が相次いでいた2006年、大型のIT関連投資も盛んに実施され、有力企業441社を対象とした日経情報ストラテジーの調査*1によると2006年度に40%以上の企業が5億円以上のIT投資を行っており、うち13.3%の企業は50億円以上に達していました。 しかし、図1-1に示す通り、IT投資に対し「期待以上」もしくは「期待通り」の評価をしている企業は全体の30%にとどまっています。*2


図1-1 IT投資に対する評価(出展:日経ソリューションビジネス2006年6月30日号 9ページ)

物流センター運営において、最も効果を求められる「業務コストの削減、業務プロセスの自動化、効率化」といった面で見ても期待通りの効果が出たと評価する割合は約40%であり、情報システム構築の難しさ、「理想と現実のギャップ」が存在していることが明確になっています。

では、なぜこのような結果となってしまうのでしょうか?筆者の経験において取りまとめてみると、 ①システム化する上での要件定義が不十分。 ②ユーザー(現場担当者)が現状業務の内容に固執し、システム化=業務改革に踏み切れない。 ③物流現場の高齢化が進み、ITそのものを使いこなすことが困難。 ④SEが物流に関する知識を持っていない。 ⑤期待そのものが大きすぎる。 などが挙げられます。

①~④の問題には相互関係があります。

ユーザーは直面している課題解決方法や求める効果の実現のため、どのようなシステム化をすればよいか、その知識、経験が不足していることです。対してソリューションを手がけるSEは物流に関する本質的な知識、物流業務の経験がないことが多いです。

このまま両者がシステム化を進め、いざ実際にシステムの運用をはじめて見たら上手く行かず、「求めた内容になっていない。」(ユーザー)、「そのような要件は聞いていない」(SE)と責任の擦り合いが始まることが多々発生します。

②については、ユーザーは経験やいままで築き上げてきた歴史などから「今の仕事の方法が1番」という意識が強く、システム化に対し現状業務を基本に考えることから、抜本的な改革に結びつけることができません。結果、「コンピュータへの入力作業が今までより増えただけ」となってしまい、効率化どころか逆に工数増に陥る場合もあります

物流業界のIT化

情報化白書2006(財団法人 日本情報処理開発協会、2006年)によると、物流業界の情報化に関するデータは他業界と比較すると次の表1-1のような状況です。*3

表1-1 物流業界のIT化指標


((財)日本情報処理開発協会、情報化白書2006、P362,365をもとに筆者が作成)

物流業界のIT化投資は他業界と比較すると、パソコン保有台数は金融・保険業に比べれば劣るものの、その規模は決して小さくはありません。むしろ平成15年度と平成17年度を比較した伸長率については、105.4%と拡大しており、各企業が積極的にIT投資を行っている状況が読み取れます。また、特筆すべきはその構成比で、ソフト関連が占める割合は他業界と比べ極めて高く、保管や輸配送といった物流現場のなかでも情報システムが不可欠なものとなってきていることを示しています。

実効性の高い情報システムの必要性

これまで述べてきた通り、物流業界におけるIT投資による効果創出およびサービスメニュー拡大によるシステム構築の煩雑性、困難性の解決は企業の生き残りをかけた命題です。そのポイントとなるのは、構築したシステムの「実効性」です。他社との差別化を図る最大の要素は「強い現場力」であり、すなわち人材力とそれを支えるシステム力の強化にほかなりません。どんなに高いコスト削減効果のある提案をしても、いくら豊富なシステムメニューを提供しても、日々物流センターを運営する「現場」がそれを実現あるいは使いこなすことが出来なければ、遅かれ早かれ顧客から見放されてしまうのは言うまでもありません。では具体的にどのようなシステム構築プロセスをすればよいか、筆者が考える手順は次の通りです。

システム構築のステップ

<STEP:1>

プロジェクトメンバーを構成し、経営、ユーザー、コンサルティング部門において、現状業務の課題、システム化の目指すべき効果について議論され、意志の共有を図った上でプロジェクトの推進をスタートさせる。

<STEP:2>

ユーザーとコンサルティング部門が共同で個人別の現状業務分析を実施しボトルネックとなっている業務等を明確化する。続いてシステム化検討を実施し、導入後の具体的な業務フローを検討し取りまとめを行う。

<STEP:3>

システムの骨子が固まった後、具体的な効果算定を実施する。例えば事務作業員の効率化については、システム導入後の業務別にどのような改善があるか整理し削減時間の積み上げで算出する。

<STEP:4>

経営を含めた全体会議を行い、具体的なパソコン画面のイメージを含めたシステム案および費用対効果について検証を実施する。(実際はSTEP:1~4を複数回繰り返し最終的な経営からの承認を得る。) 以降、ソフトウェア開発担当部門がシステム設計書を作成し複数回のレビューを行った後、開発を開始する。

<STEP:5>

ソフトウェア開発がスタートしてから完成予定の中間地点にて、プロトタイプレビューを行う。

※プロトタイプレビューとは、実際のパソコン画面上にて擬似的にユーザーがシステムを操作し、その内容について検証をすることです。これにより、ユーザーが新たな課題に気づいたり、ソフトウェア開発者との認識違いに気づいたりすることができます。システムが完成してから新たな課題が噴出した場合その変更作業は困難な事が多く、あわせて余分な費用を生み出すことにつながります。期待する効果を現実に創出するためには、ユーザーと開発者の意志の疎通は不可欠だからです。

<STEP:6>

システム導入時の支援はコンサルティング部門も参画し、導入フォローをしながら検証を行う。

実効性の高いシステムとは

筆者が考える「実効性の高いシステム」とは次の通りです。

① ユーザーがシステム導入の目的を理解し運用することができること。
② 導入後即、運営が可能なシステムであること。
③ 誰もが使うことの出来る容易性のあるシステムであること。
④ 社内のみならず顧客から評価されるシステムであること。

①は最も重要な要素です。使う側が「何のために導入したシステムなのか」「このシステムを導入することで、どんな効果を期待して(目指して)いるのか」を明確に理解することが大切です。これが実現できれば、ユーザーは自発的にシステムの利用価値を向上させようと仕事のやり方自体の改善にまで踏み込むことが多いです。システムの有効利用を第一に考え、導入以降のシステム変更など「どうすればもっと効果を出すことができるか」といった観点で行動を起こします。

②③は相関関係にありますが、「誰もが」とは作業者全員という意味ではありません。管理者とパートさんでは当然担当する業務が異なるので、システムの機能別にターゲットとする作業者と求めるレベルを設定します。パートさんは入力作業まで、社員にはマスタ管理までといった具合にコンセプトを立て実現を目指します。

最後に④は、導入部門だけではなく、社内の関連部門、強いては顧客にまで効果をもたらし評価を得られるシステムにしなければならないということです。このようなシステムを構築するには企画段階からの構築プロセスが重要です。

新たな課題

今後の新たな課題としては「システム導入による定性的効果」の取扱が挙げられます。IT投資の評価手法について54.4%がコスト削減などの金額換算した効果目標を設定している(参考:日経情報ストラテジー 2007年3月号 54ページ)ことからも分かる通り、「顧客サービスレベルの向上」といった金額換算が難しい効果についてどう評価するか、今後指標化等の手法が課題です。

【参考文献】
*1 日経BP社、2007年、「日経情報ストラテジー 2007年3月号」、日経BP社、P54
*2 財団法人日本情報処理開発協会、2006年、「情報化白書2006」、(株)BCN、P362,365
*3 日経BP社、2006年、「日経ソリューションビジネス2006年6月30日号」 P9

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