はじめに
“在庫の適正化”、これは多くの企業が抱える共通のテーマではないでしょうか。
ロジ・ソリューションでもこれまで「在庫を削減したいが、欠品は起こしたくない。適正な在庫量はどの程度か。」という荷主企業からの疑問に対し、在庫量削減へ向けた在庫管理のあり方をアドバイスさせて頂いております。
一般的に使用される「在庫管理」という言葉は、企業、立場によって考え方が違うケースがあります。例えば物流事業者であれば入出庫、在庫などの「在庫“数量”管理」であり、卸売業であれば「在庫“費用”管理」であり、メーカーであれば「在庫“費用”管理+“品質”管理」となります。
また在庫運用の考え方についても、卸売業では、保管在庫数を絞り、最低限の在庫量、費用で運用することであり、メーカーでは、卸売業と同じ運用を理想とはするものの結果として生産計画に合せた生産品の備蓄分を加えた在庫量での運用となるケースが多いです。
今回は適正在庫の考え方を基にした在庫管理について、卸・メーカーの視点から見た一般的な理論と事例を紹介をしたいと思います。
適正在庫の考え方
<A.在庫管理の目的>
在庫管理の目的は2つあります。
- 顧客が欲しいものを欲しいときに、欲しいだけを提供する(=ジャスト・イン・タイム)顧客サービスの維持、向上
- 在庫を過剰でもなく、品切れも起さないように適正化し、在庫によって発生する余分な費用を排除する効率化
顧客サービスを重視する視野に立てば在庫は必要ですが、在庫を持つことは、在庫品の売価下落、品質劣化・陳腐化、不良資産化による廃却損発生、在庫投資資産の固定化・金利負担、在庫保有コスト(荷役費、倉庫費、情報システム費)等の費用の発生を招くため、在庫量は出来れば低く管理することが必要です。
つまり「在庫の適正化」とは、顧客満足を維持する在庫サービス率のレベルを設定し、それを満足する最低限の在庫量を維持することを意味します。
<B.適正在庫量の決定要素>
では、最低限の在庫量=適正在庫量は何で決まるでしょうか…。
適正在庫量を決定する要素は4つあります。
- 出荷量の平均とバラツキ
- 在庫補充のリードタイム
- 在庫補充の頻度
- 需要変動
それぞれの内容を説明します。
(1) 出荷量の平均とバラツキ
日々の出荷量は、商品によって出荷量の大きさやバラツキがありますが、特需(特売、キャンペーン)を除けば、一般的に出荷量は正規分布に従うとされています。
図1:正規分布図
図1のように、正規分布は左右対称の分布で、中心値付近が最も確率が高く、中心値から離れるほど確率が低くなります。ここで得られる平均値(μ)が平均出荷量となり、標準偏差(σ)がその平均のバラツキのとなります。平均値(μ)に1σ加えた時、μ+1σ以上よりも大きい値になるのが欠品になる確率となります。その確率として、
- 平均値(μ)に1σ加えた時、μ±1σにおさまる確率は68.27%、μ+1σ以上になる確率は15.8%
- 平均値(μ)に2σ加えた時、μ±2σにおさまる確率は95.44%、μ+2σ以上になる確率は2.28%
- 平均値(μ)に3σ加えた時、μ±3σにおさまる確率は99.74%、μ+2σ以上になる確率は0.13%
になります。
(2) 在庫補充のリードタイム
在庫品目の補充発注から商品が入庫するまでの時間が補充リードタイムです。
補充リードタイム=発注事務の時間+供給元へ補充情報が届く時間+補充商品を生産する時間+供給元から倉庫への輸送時間
(3) 在庫補充の頻度
在庫がどれくらいの量になったら補充を行うかという在庫量を「補充点」とよびます。
在庫補充の方式には3種類あり、
・不定期定量補充方式
「在庫量が補充点より少なくなったら、あらかじめ決められた一定量を補充する方式。」
・定期不定量補充方式
「定期的に補充量を計算して補充する方式。」
・不定期不定量補充方式
「補充点も、補充量、補充間隔も決めない方式。特売品等都度必要なだけを補充するため、都度補充方式とも呼ばれる。」
在庫補充の頻度は、この補充方式と1回の補充量によって決まります。
(4) 需要変動
需要の季節・曜日変動や月末、期末の集中、特売やキャンペーン等の需要集中がある場合、需要変動を見極めながら在庫量を管理する必要があります。
以上の4つが適正在庫量を決定するための主要素だと言われています。
<C.安全在庫と補充量の考え方>
安全在庫の概念は図3になります。在庫がAまで減少した時点で、補充発注を行った場合、補充入庫が入るBまでの期間に、どれだけ減るかを予想します。
・補充リードタイムの平均出荷量予測=日々の平均出荷量×補充リードタイム
補充リードタイム期間の予測出荷量以内で収まるのであればよいですが、売れ行き好調で、商品の出荷が伸びたらどうなるでしょうか。当然欠品が発生し、顧客サービスが低下してしまいます。その為に、日々のバラツキに対し、「安全在庫」と呼ばれるバッファを持ち、欠品の発生確率を少なくします。
図2:安全在庫の概念図
安全在庫の基本式は次のようになります。
安全在庫=κ×σ×√n (κ:安全係数、σ:バラツキ、n:補充リードタイム)
κ:安全係数…許容欠品率やサービス率から決定。
どの程度まで不確実性をカバーするか意志決定する値。
σ:バラツキ…商品調達中の需要量の不確実性
√n:補充リードタイムの平方根
<D.補充量の考え方>
在庫量を減らすには、1回当りの補充量を少なくし、補充頻度を多くすれば平均在庫量は低く抑えることができます。(図3)
図3:補充回数増加による在庫量の減少
しかし、補充頻度が多くなると、補充費用が増加します。
そこで在庫にかかる総費用の合計が最小となる補充量を設定する必要があります。
・在庫にかかる総費用=在庫費用+手配費用
・在庫費用:在庫品を持つことによる発生費用→補充量に比例して増加。
保管費用+金利+在庫陳腐化費用+その他費用
※陳腐化費用 …在庫の品質劣化、価格下落、廃却損。
・手配費用:手配時の間接人件費や伝票発行等の処理費用
→手配数に比例して増加、補充量に対して反比例。
在庫における年間総費用と補充量の関係は次の式に表わすことができます。
年間総費用E=dp(R÷2+a)+c×(D/R)
d:在庫費用係数 p:単価 R:補充量 a:安全在庫 c:手配費用/回数 D:需要量/年
※在庫費用係数…在庫金額に対し、1年間でどれだけ費用がかかるかの係数です。品目業種によって異なりますが、メーカーでは在庫金額の20%~30%といわれています。
年間総費用Eは図4のように凹曲線になり、Eが最小になるのはEをRで微分して0になる点が最適補充量となります。
図4:補充量の考え方
計算式でいえば次のようになります。
最適補充量=√2cD÷dp
つまり、この最適補充量+安全在庫量が在庫費用面からみた適正在庫量(理論値)となります。
この理論値に、「顧客サービス(欲しいものを欲しいときに、欲しいだけを供給できる在庫量)」を考慮し、また「特売やキャンペーン等の意図的出荷や、季節、曜日の変動、短いライフサイクルの商品、景気変動の要素」を考慮した適正在庫量の決定を行う必要があることになります。
(文責:LS5/岩本)
【参考文献】
中央職業能力開発協会著
「ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト ロジスティクス管理3級」
株式会社 社会保険研究所(2007)
勝呂隆男著「適正在庫の考え方・求め方」
日刊工業新聞社(2003)
株式会社リンク ホームページ
https://www.sinops.jp/index.html
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