「医薬品物流」のリスク

近年、化学及血清療法研究所の不正が取りざたされています。未承認の医薬品が流通され、仮にそのリスクを知らずに、自分自身が服用していたことを想像すると、恐怖を覚えます。いま、医薬品における世界的な問題は大きく2つあるそうです。
一つは「偽造医薬品の流通」です。世界中の製薬業界が協力して、その防止対策に取り組んでいるようですが、先日行われたセミナーで、WHO調査による偽造医薬品の流通量は、医薬市場全体の1割に上るという驚愕の事実を知りました。しかも、その大半が途上国で流通しているという事実は胸を痛めます。ある経済大国においては、海外大手製薬メーカーが、自社の開発した商品の流通量を調査したところ、当該商品の生産量の5倍の量が流通していたことが判明したというレポートがあるそうです。つまり、4倍近くの偽造品が流通していたことになります。その国では、一般的に流通している55%が偽造医薬品だという調査報告もあり、日本に来る観光客の多くが、ドラッグストアで爆買いしている姿がうなずけます。また、インターネットの世界的な普及により、個人売買における偽造医薬品の流通防止対策は非常に困難になってきています。

もう一つの大きな問題は、「犯罪組織による偽造医薬品の売買や正規医薬品の盗難」です。米国では、オバマ大統領のリーダーシップにより、麻薬撲滅運動が積極的におこなわれるようになり、それまでマリファナ等の麻薬売買活動を行っていたマフィア等の犯罪組織が目をつけたのが「偽造医薬品」というわけです。この動きは、欧米に留まらず、日本の同等の組織にも影響を及ぼしている、と関係者は報告しています。驚きなのは、偽造医薬品の取引市場規模で、年間6兆5000億円を超えるといわれています。医薬品は、ブランドバックの偽造品のようなものに比べてはるかに偽造がしやすく、さらに麻薬の不正取引とは違い、医薬品であれば使用者数は潜在的に無限とも考えられ、犯罪組織にとっては大変うまみのある市場になっています。それに対し、法的リスクは多くの国で軽微にとどまり、偽造医薬品の不正取引は一般的に罰金刑で課せられるだけというのが実情です。また、EUにおいて、貨物輸送における医薬品の窃盗被害額は、約8000億円(2010年)に上るという報告があります。医薬品は、少量であっても高価なため、犯罪組織の獲物になっているという恐ろしい実態です。

医薬品の国際的な物流管理基準を定めているものにはGDP(Good Distribution Practice)があります。製薬メーカー側では、製造品質管理基準としてのGMP(Good Manufacturing Practice)がありましたが、医薬品のサプライチェーンにおける保管方法や配送などのリスク管理を強化するために、近年になってGDPが導入されました。とはいうものの、国内における実態としては、製薬メーカーもその実施に四苦八苦しているようです。
一方で医薬品の技術開発は日進月歩であり、バイオを応用したバイオ医薬品の流通がこれから益々増えることが想定されており、その際GDPで重視されているのが、温度管理です。指定温度帯を、集荷や納品時、輸送中、保管時などの各ステータスにおいていかに可視化管理し、温度逸脱等のリスクをいかに回避するかということを物流事業者は考慮し、対応する必要があります。

当社は、再生医療関連の物流に着手しています。まだ本格化していない市場ではありますが、昨年の再生医療新法施行(11月)をきっかけに、参入企業が活発な活動を始めており、当社もその物流工程をサポートするサービスを提供しています。そこでは、大変センシティブな温度管理を必要としていますが、これらのニーズに確実に対応し、徐々に実績も拡大しています。現時点では、再生医療分野で取り扱われる細胞等は、GDPの範疇で管理すべきものではありませんが、やがて医薬製品として流通するときには(実際に日本では4製品ほど承認されています)、GDP対応が求められることが想定されますので、今から準備を進めることが必要です。

(文責:貞 勝利)

当社はこれまでの実績から得たノウハウを蓄積しています。
再生医療市場に進出を検討されている企業の皆様、将来を見据えて、物流の品質管理に不安がありましたら、どうぞ当社にご相談ください。(お問い合せはこちら

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第306号 2015年12月16日)

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