マジカルDE&I―ダイバーシティを形骸化させない為にー

553号を担当いたします小出です。

柚木麻子さん著『マジカルグランマ』を読んで

 皆さんは「マジカル・ニグロ」という言葉をご存知ですか。恥ずかしながら私は、柚木麻子さん著『マジカルグランマ』[i]という小説で初めてこの言葉を知りました。題名から、魔法のような神秘的なおばあさんのお話かな、なんて想像していたら・・・私の予想は裏切られ、とても面白く読ませていただきました。

 ここで出てくる「マジカル」には、気付かぬ内に内在化された差別的な意識や感覚が含まれていて、私の場合はそのことにハッと気付かされショックを受けました。著者はインタビューで、「差別する側、強い側にとって都合のよいキャラクターを求められるってことは、私たちの日常のいたるところにあふれている[ii]。」と語っています。

 そうです、マジカルグランマは、私たちがイメージする理想のおばあちゃん像で、映画やドラマでも度々登場するキャラクターの様なおばあちゃんを指していたのです。いつも静かに見守っていてくれて、困った時には優しく手を差し伸べてくれて・・・孫からしたら現実のおばあちゃんはマジカルグランマそのものかもしれませんが、おばあちゃんだって人間です。綺麗なところばかりではないし、いつでも誰にでも優しく正しいとは限りませんよね。でも、そうではないところが少しでも露出すると、必要以上に落胆してしまうケースも多いと思います。

マジカル・ニグロとは

 ここで、マジカル・ニグロに戻りたいと思います。マジカル・ニグロとは、特にアメリカ映画で白人の主人公を手助けする不思議な力を持った良い黒人を指し、人種表現のステレオタイプ化に対する批判が込められた言葉です[iii]。そう言われると該当する作品が幾つも思い浮かぶ方も多いと思いますが、ここで問題なのが、黒人を肯定的な存在として描きながら、実際は白人に従属的で従順なキャラクターでしか認めていないということです。

 映画を観て、人種を超えた愛情や友情に感動していただけのつもりでも、それらが潜在的なステレオタイプを生み、気付かぬ内に差別に加担している可能性もあるのです。多数派が作る社会の中で、大多数の人が常識として受け入れていることが、少数派にとっては非常識で苦痛に感じるケースは沢山あるのだと思います。何か不自由なところがあると別の特殊な可能性に期待され、少し”普通”と違うところがあると魅力的なキャラクターを期待されるなど、素の自分のままでは許容されない空気が存在しているのではないでしょうか。

 近年ではダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion、多様性と調和・受容・包摂性)や、それに公平性が加わったダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(Diversity Equity & Inclusion、以下DE&I)[iv]の取り組みが広まってきていますが、多様性でイノベーションを生み出し、価値創造に繋げられている企業ばかりではないのではないでしょうか。

強い荷主と弱い物流事業者の構造もまた

 マジカル・ニグロやマジカルグランマの様に、強い側・多数派がイメージする分かりやすくて自分達にとって好都合なキャラクターを押しつけ、弱い側・少数派が空気を読んだり世間体を気にしたりしてその役を演じているケースは、社会でも企業でも各所で見られると思います。強い荷主と弱い物流事業者の様な構図は、担当者レベルにも浸透し、無理難題を押し付けるのが当然のことの様にまかり通っているケースもその一例ではないでしょうか。国籍や性別に限らず、社会的立場や役職、年代などにも「マジカル」は存在していて、気付かぬ内に安易な理想的キャラクターを押し付けていることもあると思います。世間の目、多数派、上下関係に臆して、本当の意見を発信できないことも多いのではないでしょうか。そのような状況下で、本来の能力を発揮し合い、イノベーションが生まれるとは思えません。

 人は経験したことでさえも、今現在のことでなければ完全に共感・理解することは難しいと思います。経験したことがないなら尚更で、そのことを自覚した上で、知ろうとすること、想像力を働かせることがインクルージョンに繋がっていくのではないでしょうか。2015年から始まったSDGsの動きや、2019年から始まった働き方改革などによって、ダイバーシティは社会や企業に普及してきているように感じます。制度が整い、多様性を受け入れる社会が認知されるようになりました。次は、社会を構成する私たち一人ひとりが、自身の中にある「マジカル」の存在に気付き、本当の自分・相手を知ることでDE&Iが実態のあるものになっていくのではないでしょうか。

(文責:小出)

(参考)


  • [i] )「マジカルグランマ」、柚木麻子著、朝日文庫、朝日新聞出版
  • [ii] ) 柚木麻子さん「マジカルグランマ」インタビュー 70代女性がヒロインの理由| 
  • [iii] ) マジカル・ニグロ – Wikipedia:
  •  [iv] ) 経済産業省『ダイバーシティ経営の推進について』(2024年2月):

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第553号 2024年10月30日)

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