「止めない物流」より「安全に止め、早く戻す物流」へ ―物流事業者が見直したい災害対応とBCP―

物流事業者が見直したい災害対応とBCP

 2026年7月28日の熊本地震では、道路や鉄道、物流施設に被害が生じました。また、8月には千葉県や福井県で大雨が発生し、河川の浸水や県道の通行止め、鉄道施設の被害などにより、人や物の移動に影響が及んでいます。
 地震や大雨などの自然災害が多い日本の物流を担う企業にとって、災害対応は一時的な特別対応ではなく、事業継続と輸送の安全を守るために欠かせない経営課題といえます。
 地震と大雨では、発生の仕方も事前に確保できる時間も異なりますが、物流事業者に突きつけられる問題には共通点があります。従業員やドライバーの安全をどのように確保するのか、輸送や荷役をどの時点で止めるのか、限られた人員・車両・施設で何を優先するのか。そして、どのような条件が整えば業務を再開するのかという判断です。
 BCP(事業継続計画)というと、緊急連絡網や備蓄品のリストを作成することが中心になりがちですが、本来の目的は、災害時にもすべての業務を止めないことではなく、人命と輸送の安全を最優先に、必要な業務を選び、限られた経営資源で早期に立ち上げ直すことです。本稿では、物流事業者が災害対応とBCPを見直す際のポイントを5つの視点から整理します。

災害の種類に応じて、対応の時間軸を分ける

 地震は発生時刻や規模を事前に予測することが難しいため、平時の備えと発災直後の初動が重要です。発生後は、従業員やドライバーの安否確認、車両の現在地把握、倉庫や荷役設備の安全確認などを速やかに進める必要があります。本社や拠点の責任者が被災して連絡できない場合も想定し、誰が代わりに判断するのかまで定めることが重要です。
 一方、大雨や台風は、気象情報から一定程度は予見できます。最新の気象情報やハザードマップを確認し、車両や在庫の退避、輸送の前倒し・延期、物流施設の稼働縮小などを発災前に判断することが可能です。
 重要なのは、警報が出てから考え始めるのではなく、「どの情報が、どの水準に達したら、誰が何を決めるか」をあらかじめ定めることです。特に大雨特別警報は、すでに重大な災害が発生している可能性が極めて高い段階で発表されます。特別警報を待って運行停止を判断するのでは遅く、それ以前の警報、自治体の避難情報、道路状況などを組み合わせた判断基準が必要です。

集める情報と、報告の形式を決めておく

 発災直後には、現場、本社、荷主、協力会社から多くの情報が入ります。しかし、情報が断片的であれば、状況確認だけに時間を取られ、意思決定が遅れてしまいます。
 確認すべき情報は、少なくとも「人」「施設・車両・貨物」「輸送インフラ」「燃料・電力・通信」「荷主・着荷主・協力会社」の単位で整理しておく必要があります。報告する際も、単に「被害あり」と伝えるのではなく、「現在の状態」「業務への影響」「復旧見込み」「必要な支援」を共通の形式で共有すると、優先順位を判断しやすくなります。
 また、固定電話や社内システムが使えない場合を前提に、携帯電話、メール、チャット、無線など複数の連絡手段を用意しておくことも重要です。連絡先の一覧があっても、通信手段が一つしかなければ、災害時には機能しない可能性があります。

災害時の優先業務を、荷主と合意しておく

 被災により輸送能力や荷役能力が低下した状況では、平時と同じ対応を維持することは困難です。それでもすべての依頼を受けようとすれば、現場の負荷が高まり、ドライバーや作業者の安全を損なうおそれがあります。
 そこで平時から、どの貨物や納品先を優先するのか、どの業務は延期できるのかを荷主や着荷主と協議しておく必要があります。医薬品、食品、飲料水、復旧資材など社会生活に直結する貨物だけでなく、取引先の事業停止につながる貨物や、在庫日数が短い商品など、自社の取引実態に応じた基準を設けます。
 「すべて最優先」という状態は、優先順位が決まっていないことと同じです。物流事業者だけで判断を背負わず、荷主・着荷主と事前に合意しておくことが欠かせません。

代替手段を「使える状態」にしておく

 代替拠点や迂回ルート、協力運送会社などを記載していても、実際に切り替えられなければ機能しません。代替拠点が同じ浸水想定区域にある場合や、協力会社から提供可能な車種・台数が決まっていない場合など、災害時に初めて問題が明らかになるケースもあります。
 一方、すべての拠点や輸送手段を二重化するには相応のコストがかかります。そのため、自社の優先業務や目標復旧時間を踏まえ、何をどこまで備えるのかを決めることが重要です。
 そのうえで、「どの条件で切り替えるか」「どの程度の能力を確保できるか」「切替えに何時間かかるか」「誰が手配するか」まで具体化します。燃料、非常用電源、通信手段、物流システムのバックアップについても同様です。

訓練を通じて、計画を更新する

 災害対応では、想定どおりに情報が集まり、責任者が予定どおり指示を出せるとは限りません。そのため、BCPを作成した後は、図上訓練や実動訓練を通じて実効性を確かめる必要があります。
 「責任者と連絡が取れない」「主要拠点が使用できない」「電話と社内システムが停止した」「複数の幹線道路が通行止めになった」といった条件を設定すると、情報共有の遅れ、代替手段の不備が見えやすくなります。可能であれば、荷主、着荷主、元請・下請事業者、協力会社も交えて訓練し、企業間の連絡や判断にずれがないか確認することが望まれます。
 BCPは、一度作って保管する文書ではありません。訓練や実際の災害で明らかになった課題を反映し、継続的に見直すことで、初めて「使える計画」になります。

災害時に迷わないために、平時に決める

 自然災害そのものを止めることはできません。しかし、発災後の混乱の大きさは、平時の準備によって変えることができます。
 輸送や作業を止める判断者は決まっているか。責任者が不在でも判断できるか。優先して再開する業務は明確か。代替拠点や輸送手段は本当に使えるか。荷主や協力会社と認識を共有できているか。これらの問いに具体的に答えられない部分が、BCPを見直すべき箇所です。
 物流事業者に求められるのは、災害時にも無理に動き続けることではありません。必要なときには安全に止め、守るべき物流を選び、できるだけ早く立ち上げ直すことです。BCP策定のゴールは、計画書を完成させることではなく、非常時にも組織として迷わず意思決定できる状態をつくることにあります。 平時だからこそできる備えを、今一度確認してみてはいかがでしょうか。

文責:益田 善綱

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信特別号 2026年9月9日)

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気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」
災害・防災情報:令和8年熊本地震における被害と対応について – 国土交通省
国土交通省「令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について」【速報】福井県に「レベル5大雨特別警報」を発表 命を守る行動を(気象予報士 日直主任 2026年08月30日) – 日本気象協会 tenki.jp
国土交通省「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」
国土交通省「運輸防災マネジメント指針」 

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