配車業務をAIに任せれば完璧な答えが出てくるのか?:AIとバイアスの問題

人間の意思決定はヒューリスティクスに基づいている

人間が行う意思決定に影響する変数は無数に存在しますが、それらすべてを解法に盛り込むことは現実的ではありません。

そのため、程度の差はあれ、人間の意思決定はヒューリスティクス(印象および限られた情報を経験と結びつけ、感情や意図を定義し、解を導く、簡便な解法)に基づくものであるといえます。

平均的な意思決定であればさほど問題にはならず、むしろ意思決定までの時間の短さが重宝されます。言い換えると、問題への最適解を導く解法ではなく、問題に対する人間の行動を含めた適正解を導く便利な解法というところでしょうか。他方において、ヒューリスティクスに基づき導き出された解は個々の認知バイアスに多くの影響を受け、かつ解が認知バイアスの影響を受けていると主体者が認識しにくいという特徴もあります。

私たちは日々経験を積み重ねており、多くの場面では経験が豊富であることをプラスのことと評価されることでしょう。しかしながら、経験はあくまで個々人が有する有限の認知リソースにより形成された限られた情報群であり、認知バイアスを強める効果を持つが故、特に変化が激しい時代においては、適正な意思決定の阻害要因ともなり得ます。

第一に、私たちが日々行う意思決定は、多分に認知バイアスを含んでいるものと認識する必要があります。その上で、例えば第三者組織を用いるなど、多様性を内包した組織による意思決定を行うことが望ましいでしょう。

AIもバイアスと無縁ではない

上記、一言でまとめると『バイアスに気をつけよう』ですので、読者の皆様にとっては釈迦に説法であろうことと存じ上げます。しかし、なぜAIについて議論する際、それが人間の経験値を機械学習させたものと認識していても、あたかも『正解』を導き出してくれるかのような強い期待をうかがうのはなぜでしょう。

例えば配車業務について、実務担当者が行っている配車の特徴をディープラーニングから導き、AIによって自動で業務を行いたいというようなことを、頻繁にうかがいます。言葉をそのまま捉えると現担当者によるヒューリスティクスの自動化なのですが、それによりAIが最適解を導き出してくれるかのような、期待も同時にうかがいます。数年前に多くのメディアにて紹介されたAlphaGo(*1)の影響でしょうか? バイアスいと上がりけりです(*2)。

配送オーダーの詳細条件の確認および変更に向けた調整、荷姿に基づく積み合せ計算、ルート組み合せ計算、法定拘束時間の考慮、集車、ドライバーの経験の考慮、ドライバーの育成に向けた考慮、ドライバーの体調配慮など、配車業務は複数のプロセスにより構成されており、また相互に関連しています。どのプロセスを経験値に頼り行うべきか、数理計算に基づき行うべきか、もしくはそれ以外の手段を用いるべきか、また常にその方法でよいのか、繁忙期や閑散期、その他東京オリンピックなどの平均的ではない時期は別の手段を用いたほうがよいのか、プロセスごとの特性や時々の技術を踏まえた上で、深く考えていく必要があります。

(文責:松室 伊織)

(*1) AlphaGoについてはNHKスペシャル『天使か悪魔か 羽生善治・人工知能を探る』にて、大変興味深く取り上げられています。
(*2)タイトルおよび脚注元の表現は吉本興業(株)所属EXIT様の漫談を参考にさせていただきました。

【参考資料】
・「意思決定の行動経済学」ダニエル・カーネマン、ダン・ロバロ、オリバー・シボニー(ダイヤモンド社 2016年1月)
・「意思決定の教科書」ダニエル・カーネマン、ダン・ロバロ、オリバー・シボニー(ダイヤモンド社 2019年6月)
・「NHKスペシャル『天使か悪魔か 羽生善治・人工知能を探る』」(NHK 2016年5月15日)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第417号 2019年11月13日)

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