自動車運転死傷行為処罰法が成立、5月末までに施行

はじめに

昨年11月20日、飲酒運転や薬物、無免許運転など、悪質な運転による事故を起こした場合の罰則を強化した「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)」が、参院本会議で全会一致により可決・成立しました。

今回はこの新法について取り上げてみます。

悪質な交通事故が相次いだことにより、交通事故の加害者に対する刑事責任は厳罰化が進み、2001年危険運転致死傷罪の創設、2007年自動車運転過失致死傷罪の創設及び飲酒運転に対する罰則強化など実施され、その結果、飲酒運転を原因とした交通事故件数は約1/5、そのうち死亡事故は1/4に減少(2012年実績:256件)しています。[政府広報より]

しかし、それでも既存の法令では補完できない事故が発生したため、新たに法律を制定しています。現行では危険運転致死傷罪の最高刑は懲役20年ですが、「正常な運転が困難な場合」という立証は難しく、適用は限定的でした。大半の事故に適用される自動車運転過失致死傷罪は最高刑で7年と、量刑の差があり過ぎることから見直しが求められていました。

今回の新法で変更になるのは主に4点

(1)危険運転致死傷罪の適用要件に「通行禁止道路の危険運転」を追加

・「通行禁止道路を重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」が加わり、【一方通行道路や高速道路の逆走】【歩行者天国など歩行者専用道路での暴走】などが想定されます。

(2)病気等の影響による死傷事故に危険運転致死傷罪を適用

・「アルコールや薬物、特定の病気の影響で、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合」に適用します。最高刑15年、従来の要件を緩和して、対象を広げるのが狙いです。

(3)飲酒運転事故等の「逃げ得」を処罰する規定を新設

・アルコールや薬物の影響で起こした死傷事故後に、逃走してアルコール等の濃度を減少させる行為等を処罰する「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」が新設されました。
・逃走してアルコール等の影響が弱まってから検挙された方が、罪が軽くなる「逃げ得」(懲役7年以下)を解消するため、最高刑12年、ひき逃げの罪と併合すると、最高刑18年となります。

(4)無免許運転の場合は刑を加重

・新法の罪を犯した者が無免許運転であった場合、上記それぞれの刑に3~5年の刑が加重されます。但し、最高刑は懲役20年までとなります。

この法律は、公布から6カ月以内に施行されるため、今年5月下旬までに新法が適用されます。この新法で悪質な運転の抑制につながると期待する一方で、まだ不十分な点があるとも言われています。

その点とは、適用が曖昧でわかりにくいということ。例えば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、どんな状態なのか?また、従来の危険運転致死傷罪の適用要件の「正常な運転が困難な状態」との違いをどう区分するのか?弁護士からは処罰の範囲が広がり過ぎる場合や、適用にバラツキが生じるとの指摘があります。

以上のことから政府は混乱が無いよう、新たに処罰対象となる行為や適用基準を明確化して、十分な説明と検証を行い、周知徹底していくことが必要となります。

また、「特定の病気」に関しては、政令でどの病気が対象となるか等定める際はさまざまなケースを想定した対応が求められています。現在、法務省でこの新法に対するQ&A対応のHPが設けられていますが、具体的な適用基準にまでは至っておらず、今後政令で定められる事案もあります。

前述の通り、飲酒運転の件数自体は減少していますが、重大事故等に直結する交通事故は未だに後を絶ちません。責任は運転者本人だけでなく、家族や車の所有者、同乗者、さらには雇用主まで問われるケースもあり、特に企業においては管理責任の追及から企業への信用問題まで影響が広がる可能性まであります。

誰しも、被害者にも加害者にもなりたくありませんが、ある日突然自分や自分の周りに起こるかもしれません。悪質な運転による痛ましい事故をなくしていくため、法律の整備は勿論ですが、国や自治体による通学路や歩行者道路等の環境整備、事故を防ぐための自動車安全技術の開発、そして、交通安全教育の充実と共に、私たち一人ひとりが安全意識を高めていかなければなりません。

(文責:沖原)

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【参考文献】
内閣府(政府広報オンライン)
飲酒運転は絶対に「しない!」「させない!」みんなで守ろう3つの約束
法務省
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案 Q&A

◆最近の道路交通に関する主な法令改正

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第240号 2014年2月21日)